Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「えっと、ではいくつか新曲について質問させてください」
新曲のリリースに合わせて、想は連日取材を受ける。
今日は音楽雑誌のインタビューで、三十代の男性編集者の質問に答えていた。
「今回の新曲『Snowy Crystal』は、恋人たちの為の曲とは少し違って切ないナンバーだという印象を受けますが、いかがですか?」
「そうですね、楽しくて明るいクリスマスソングではないです。どちらかと言うと自分は、クリスマスには静かな『きよしこの夜』を演奏したくなります。この『Snowy Crystal』もそのイメージで書きました」
「なるほど。雪の結晶に重ねて恋人への想いを歌った歌にも感じられますが?」
「この曲を聴いてなにを思い浮かべ、どう受け止めるかは、聴いてくださる方それぞれ違って当然だと思っています。なにかを感じていただけたら本望です」
「うーん、想さんは相変わらず掴みどころがないというか、あんまり本音を語ってくれませんよね」
苦笑いする編集者に、想は視線を伏せる。
「すみません、口が上手くなくて」
「いえいえ。アーティストですから、音で語るってことですよね。でもちょっとだけ突っ込んだ質問をさせてください。想さんはこれまで、いわゆる王道のラブソングを書かれていないですよね。それはなぜですか?」
「王道の、ラブソング、ですか?」
「はい。わかりやすく言うと、歌詞にアイラブユーとか、君が好きだと入っていたり……」
「ああ、そうですね。そういった歌詞は書いたことはありません。実際に言ったこともないので」
すると編集者だけでなく、隣で聞いていた本田までもが「えっ!」と声を上げた。
「ちょ、ちょっと待て、想。すみません、今のセリフはカットで」
本田はあたふたと話を遮って、想の方へ身を乗り出す。
「お前な、なに路線だよ、それ」
「なに路線って?」
「クールなキャラとか、硬派なタイプならわかる。でも、女を好きになったこともない、みたいな言い方するな」
「まあ、実際そんな感じですし」
「わー! あの、ほんとすみません。オフレコでお願いします」
編集者に向かって必死に手を合わせてから、本田はまた想に向き直ってため息をついた。
「頼むよ、想。ちょっとは考えてくれ。お前のファンは、お前に恋してくれてるんだぞ? それなのにそんな、バッサリ斬り落とすみたいな……。ファンサービスってもんがあるだろうよ。ウインクしろとか笑顔で手を振れとは言わないけどさ、ちょっとは世の女性たちをキュンとさせるようなこと言ってくれ」
「……なにを言えばいいですか?」
「そうだな。好きなタイプとか、理想のデートとか。女の子にこういう仕草でこんなこと言われると好きになっちゃいます、みたいなことをちらっと匂わせるんだよ。なんかないのか? 過去にあったシチュエーションとか」
「デートとか、まともにした記憶ないんで。どの子とのつき合いも、軽い感じだったし」
「おまっ、どんな人生送ってきたんだよ? そんなんで曲が書けるのか?」
「だからラブソングが書けないんだと思います」
「ああ、そうか。って、俺を納得させてどうする!」
まあまあと、編集者が手を伸ばして苦笑いした。
「そこは上手くこちらで書かせていただきます。露骨に恋だの愛だの言わずに、寡黙な雰囲気を醸し出す想さんだからこそのファンもいますからね。でも個人的には、僕はいつか想さんのラブソングを聴いてみたいです」
最後はそう言って、編集者は想に屈託のない笑顔を見せた。
新曲のリリースに合わせて、想は連日取材を受ける。
今日は音楽雑誌のインタビューで、三十代の男性編集者の質問に答えていた。
「今回の新曲『Snowy Crystal』は、恋人たちの為の曲とは少し違って切ないナンバーだという印象を受けますが、いかがですか?」
「そうですね、楽しくて明るいクリスマスソングではないです。どちらかと言うと自分は、クリスマスには静かな『きよしこの夜』を演奏したくなります。この『Snowy Crystal』もそのイメージで書きました」
「なるほど。雪の結晶に重ねて恋人への想いを歌った歌にも感じられますが?」
「この曲を聴いてなにを思い浮かべ、どう受け止めるかは、聴いてくださる方それぞれ違って当然だと思っています。なにかを感じていただけたら本望です」
「うーん、想さんは相変わらず掴みどころがないというか、あんまり本音を語ってくれませんよね」
苦笑いする編集者に、想は視線を伏せる。
「すみません、口が上手くなくて」
「いえいえ。アーティストですから、音で語るってことですよね。でもちょっとだけ突っ込んだ質問をさせてください。想さんはこれまで、いわゆる王道のラブソングを書かれていないですよね。それはなぜですか?」
「王道の、ラブソング、ですか?」
「はい。わかりやすく言うと、歌詞にアイラブユーとか、君が好きだと入っていたり……」
「ああ、そうですね。そういった歌詞は書いたことはありません。実際に言ったこともないので」
すると編集者だけでなく、隣で聞いていた本田までもが「えっ!」と声を上げた。
「ちょ、ちょっと待て、想。すみません、今のセリフはカットで」
本田はあたふたと話を遮って、想の方へ身を乗り出す。
「お前な、なに路線だよ、それ」
「なに路線って?」
「クールなキャラとか、硬派なタイプならわかる。でも、女を好きになったこともない、みたいな言い方するな」
「まあ、実際そんな感じですし」
「わー! あの、ほんとすみません。オフレコでお願いします」
編集者に向かって必死に手を合わせてから、本田はまた想に向き直ってため息をついた。
「頼むよ、想。ちょっとは考えてくれ。お前のファンは、お前に恋してくれてるんだぞ? それなのにそんな、バッサリ斬り落とすみたいな……。ファンサービスってもんがあるだろうよ。ウインクしろとか笑顔で手を振れとは言わないけどさ、ちょっとは世の女性たちをキュンとさせるようなこと言ってくれ」
「……なにを言えばいいですか?」
「そうだな。好きなタイプとか、理想のデートとか。女の子にこういう仕草でこんなこと言われると好きになっちゃいます、みたいなことをちらっと匂わせるんだよ。なんかないのか? 過去にあったシチュエーションとか」
「デートとか、まともにした記憶ないんで。どの子とのつき合いも、軽い感じだったし」
「おまっ、どんな人生送ってきたんだよ? そんなんで曲が書けるのか?」
「だからラブソングが書けないんだと思います」
「ああ、そうか。って、俺を納得させてどうする!」
まあまあと、編集者が手を伸ばして苦笑いした。
「そこは上手くこちらで書かせていただきます。露骨に恋だの愛だの言わずに、寡黙な雰囲気を醸し出す想さんだからこそのファンもいますからね。でも個人的には、僕はいつか想さんのラブソングを聴いてみたいです」
最後はそう言って、編集者は想に屈託のない笑顔を見せた。