君と進む季節
5.花火の音で隠した手のひら
夏の終わりを告げるように、空には大きな花火が咲いていた。
大学の友達みんなで行った夏祭り。
君は子供みたいに、屋台の焼きそばとりんご飴の袋をぶら下げて、目を輝かせてた。
君は他の子と合わせて、淡い水色の浴衣を着てきた。
いつもはまっすぐ下ろしてる君の髪が、今日は綺麗にまとめてあって、
知ってるつもりやったけど、まだまだ知らんことがいっぱいあって、ちょっとだけ苦い気持ちになった。
君は構わず屋台に夢中で、人混みの波に飲まれそうになるから、
俺は心配になって、そばを歩いてた。
「前、つかえてるで」
「ね、はぐれそう」
君がそう言うた時、前に行く友達の背中はもう遠くなってて、
屋台の明かりと浴衣の人混み、花火の音で耳の中がごちゃごちゃしてた。
人の流れが大きく揺れた瞬間、君の肩が誰かにぶつかりそうになった。
思わず手を伸ばして、君の手首を掴んだ。
「危ないで」
「……うん」
振り返った君の顔が、提灯の光に照らされてほんのり赤くなってた。
手首を離して、俺の手を君の方に差し出すと、
君は下向いたまま黙って手のひらを重ねてきた。
声はないのに、はっきり伝わってくる。
祭りのざわめきと花火の音が、いつもの自分よりも大胆なことをさせる。
人混みのざわめきと花火の破裂音が、心臓の音を隠してくれて、
何を話したかなんて、何も覚えてない。
覚えてるのは、花火の残り火と、
あの時、確かに君が俺の手を離さなかったことだけ。
花火が終わっても、手のぬくもりだけが、ずっと指先に残ってた。
大学の友達みんなで行った夏祭り。
君は子供みたいに、屋台の焼きそばとりんご飴の袋をぶら下げて、目を輝かせてた。
君は他の子と合わせて、淡い水色の浴衣を着てきた。
いつもはまっすぐ下ろしてる君の髪が、今日は綺麗にまとめてあって、
知ってるつもりやったけど、まだまだ知らんことがいっぱいあって、ちょっとだけ苦い気持ちになった。
君は構わず屋台に夢中で、人混みの波に飲まれそうになるから、
俺は心配になって、そばを歩いてた。
「前、つかえてるで」
「ね、はぐれそう」
君がそう言うた時、前に行く友達の背中はもう遠くなってて、
屋台の明かりと浴衣の人混み、花火の音で耳の中がごちゃごちゃしてた。
人の流れが大きく揺れた瞬間、君の肩が誰かにぶつかりそうになった。
思わず手を伸ばして、君の手首を掴んだ。
「危ないで」
「……うん」
振り返った君の顔が、提灯の光に照らされてほんのり赤くなってた。
手首を離して、俺の手を君の方に差し出すと、
君は下向いたまま黙って手のひらを重ねてきた。
声はないのに、はっきり伝わってくる。
祭りのざわめきと花火の音が、いつもの自分よりも大胆なことをさせる。
人混みのざわめきと花火の破裂音が、心臓の音を隠してくれて、
何を話したかなんて、何も覚えてない。
覚えてるのは、花火の残り火と、
あの時、確かに君が俺の手を離さなかったことだけ。
花火が終わっても、手のぬくもりだけが、ずっと指先に残ってた。