色褪せて、着色して。~番外編~
第1章 スズメのはなし
「スズメ君、君はこれから彼のお世話係になってもらい」
 命令されれば、部下はいつだって「御意」と答えなければならない。

 昼食を取った後に、上司に呼び出されるのは苦痛以外の何者でもない。
 ティルレット王国、国家騎士団本部のとある部屋で。
 その男は、ぼんやりと上司のマキ室長を眺めていた。
 昼食のせいで、血糖値があがっているせいかとにかく眠い。
「一つ、質問させてもよろしいでしょうか」
「なんだね」
 マキ室長は、30代後半らしいが若く見える。
 女性から言わせれば、美男子だそうで。
 20代の頃は国中の女性からモテて。奥さん以外に愛人が10人いるという噂が流れているが。
 本人に確認したところ、
「僕は独身なんだけどね」とはっきりと言った。

 まあ、確かに整った顔なわけだ。
 と、スズメはマキ室長を見ていた。
 だが、上司の顔をじっと眺めていたら失礼になるので。
 マキ室長を見るふりをしながら、焦点は窓の外にしている。
「世話係と言いますが、彼は肉体班なのでは?」
 国家騎士団は大きくいうと、肉体班と頭脳班に分かれている。
 肉体班は文字通り、肉体を使う仕事。
 トップは国王になり、主に戦に駆り出される。
 頭脳班は、政治を中心にデスクワークをする仕事だ。
 トップは王弟である蘭殿下になる。

 同じ国家騎士とはいえ、肉体班と頭脳班が関わるのは訓練のときだけだ。
 目の前に立っている男…トペニと言ったか…の胸元のエンブレムは赤。
 つまり、肉体班を示している。
 頭脳班で経理の仕事をしているスズメにとって、彼の教育係になるということは前代未聞であった。
「まあ、所属は違うが頼むよ」
 説明するのを放棄したマキ室長は笑顔で言った。
 これ以上、説明する気はないという意味である。
 ようやく、空気を読めるようになったスズメは「御意」と小さく言った。
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