【シナリオ】となりの席の再挑戦(リスタート)
第2話
ふたりきりの図書室、君のノート
⚪︎放課後の大学図書館。春の日差しが柔らかく差し込む午後。
人気の少ない閲覧席。
静かにページをめくるしずく。
足元に置いていたバッグがわずかに傾き、中からノートがスルリと落ちる──気づかないしずく。
講義終わり、図書館に入ってくる澪。
通路を歩いていた澪が、ふと足元のノートに気づいて拾い上げる。
(澪)
「……一ノ瀬さん、か。これは──落とし物、かな」
⚪︎翌日、教室。しずくがノートがないことに気づく。
(しずく)
「あれ……私のまとめノート……どこに……?」
あわててカバンの中を探すしずく。顔が青ざめる。
(しずく・心の声)
「やばい、あれ全部講義の要点書いてあるやつ……どうしよう……」
そんな時、後ろから澪の声。
(澪)
「もしかしてこれ、探してた?」
澪が、そっとノートを差し出す。
しずくは驚きと安堵の混じった表情。
(しずく)
「わ、ありがとうございますっ!どこにあったんですか?」
(澪)
「昨日の図書館。たぶん席を立ったとき、落ちたんだと思う。名前、書いてあったから」
(しずく)
「助かりました……ほんとに……!」
⚪︎その日の夕方、再び図書室。澪が静かに勉強している。
ドアの陰からそっと覗くしずく。
彼の姿を見つけると、少し躊躇してから足を踏み入れる。
(しずく)
「……あの、澪さん……いいですか?」
(澪)
「ん?どうした?」
(しずく)
「今日のお礼がちゃんとしたくて……あの、お時間、ありますか?」
澪が少し驚いたような顔で、そして柔らかく笑う。
(澪)
「じゃあ、お礼代わりに、一緒に勉強する?」
⚪︎夕暮れの図書室。机をはさんで座るふたり。
問題集を開き、しずくが眉をひそめて悩んでいる。
(しずく)
「この肝臓の代謝経路、何回見てもこんがらがってしまって……」
(澪)
「そうだね、ここは流れで覚えるとわかりやすい。代謝って、水の流れみたいなもんだと思えばいいよ」
しずくのノートに、サラサラと図を書いて説明する澪。
その指先が、しずくの手元にすっと近づき──ふと息が詰まる。
(しずく・心の声)
(……近い。落ち着け、私……)
ふと、澪の声がやわらかく響く。
(澪)
「君、書き方がきれいだね。人に伝えるために書いてるって感じがする」
(しずく)
「……私、小児科に行きたくて。子どもに、ちゃんと伝えられる医者になりたいんです」
(澪)
「そっか。……いい夢だね」
しずくが驚いたように澪を見ると、まっすぐな眼差し。
優しいだけじゃない、どこか影を落とすその目に、胸がちくりと痛む。
⚪︎帰り道──ふたり並んで歩く、キャンパスの小道。
(しずく)
「澪さんは……なんで医者をもう一度目指そうと思ったんですか?」
(澪)
「……それは、また今度話すよ。ちゃんと話せるときに」
答えをはぐらかしながらも、どこか遠くを見るような横顔。
その横顔に、しずくは目を奪われる。
(しずく・心の声)
(なんだろう、この感じ……なんか、ドキドキしてる……)
⚪︎別れ際──図書館の入り口前
少しの沈黙。ふたりの間に流れる、春の夜風。
しずくが小さく頭を下げる。
(しずく)
「今日はありがとうございました。……また、一緒に勉強してもいいですか?」
(澪・笑って)
「もちろん。俺も、一緒にやりたいと思ってた」
その一言に、しずくの頬がぽっと赤くなる。
胸の奥で、なにかが芽生えはじめていた。