ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする
4章:あの夜から今へ
忘れもしないちょうど二年前の、あの夜。
正社員になって一年目の俺は、週末になると着ぐるみのウィルとして館内を巡回していた。
その日はビレッジの花火とパレードにほとんどの客が流れ、館内はまるでゴーストタウンのように静まり返っていた。
最後の巡回ミートを終えてバックヤードへ戻る途中、ふと視界の端に入ったのは、薄暗い“大人専用ラウンジ”の海側カウンター席に座る、一人の女性の後ろ姿。
この時間に女ひとりか。
痴話喧嘩か、それとも別れた直後の傷心旅行か……いや、たぶん後者だな。
そう頭で分析しつつも、足は自然とそちらへ向かっていた。
大きな窓の外には、夜の東京湾が広がっている。
波間の光がかすかに揺れ、窓ガラス越しに反射する。
その前で、背筋を小さく丸めた彼女は、驚くほど小柄だった。
一瞬、年齢制限をすり抜けた子どもかと焦ったが、横顔を見た瞬間、息が止まった。
艶のある黒髪。
夜の照明に淡く照らされた、大きく澄んだ瞳。
華奢で儚げな輪郭。
間違いなく大人の女性だ。
その一瞬で、胸の奥がドクンと跳ねた。
……一目惚れだった。
俺とは正反対の、小さな小さな、小動物みたいな女。
まるで子リスだ。
可愛い。どストライクだ。
こんな可愛い生き物、見たことねぇ。
……やべぇ、仕事中に何考えてんだ俺。
浮かれかけたその瞬間、その大きな瞳から透明な涙がひと粒、頬を伝って落ちた。
胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに、呼吸が止まる。
小刻みに震える肩。
強く噛みしめられた唇。
……やめろ、そんな風に噛むな。
傷になるだろ。
たったそれだけの仕草が、どうしようもなく胸に刺さった。この瞬間から、俺の中の何かが決定的に変わった。それはもう、引き返せない種類のやつだった。
正社員になって一年目の俺は、週末になると着ぐるみのウィルとして館内を巡回していた。
その日はビレッジの花火とパレードにほとんどの客が流れ、館内はまるでゴーストタウンのように静まり返っていた。
最後の巡回ミートを終えてバックヤードへ戻る途中、ふと視界の端に入ったのは、薄暗い“大人専用ラウンジ”の海側カウンター席に座る、一人の女性の後ろ姿。
この時間に女ひとりか。
痴話喧嘩か、それとも別れた直後の傷心旅行か……いや、たぶん後者だな。
そう頭で分析しつつも、足は自然とそちらへ向かっていた。
大きな窓の外には、夜の東京湾が広がっている。
波間の光がかすかに揺れ、窓ガラス越しに反射する。
その前で、背筋を小さく丸めた彼女は、驚くほど小柄だった。
一瞬、年齢制限をすり抜けた子どもかと焦ったが、横顔を見た瞬間、息が止まった。
艶のある黒髪。
夜の照明に淡く照らされた、大きく澄んだ瞳。
華奢で儚げな輪郭。
間違いなく大人の女性だ。
その一瞬で、胸の奥がドクンと跳ねた。
……一目惚れだった。
俺とは正反対の、小さな小さな、小動物みたいな女。
まるで子リスだ。
可愛い。どストライクだ。
こんな可愛い生き物、見たことねぇ。
……やべぇ、仕事中に何考えてんだ俺。
浮かれかけたその瞬間、その大きな瞳から透明な涙がひと粒、頬を伝って落ちた。
胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに、呼吸が止まる。
小刻みに震える肩。
強く噛みしめられた唇。
……やめろ、そんな風に噛むな。
傷になるだろ。
たったそれだけの仕草が、どうしようもなく胸に刺さった。この瞬間から、俺の中の何かが決定的に変わった。それはもう、引き返せない種類のやつだった。