姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.70 真くん


“祝・倉敷グループ創業15年周年”の看板。
豪華で煌びやかな大広間。

学校では賑やかにしているクラスメイト達も、綺麗に着飾って親の後をついて歩けばまるで別人。

僕も例外なくその1人なんだけど。

父親の後をついて回り、薄っぺらい社交辞令に会釈するのを繰り返す。
母親はクラスメイトの母親達と何が面白いのか、高らかに笑いながら談笑している。

僕は良家と縁を繋ぐただのパイプ。
特に今日は――広瀬と繋がるための、重要なパイプだ。

(本当に身勝手で都合のいい親。)

そうやって恨みがましく思うのに、拒否しない、できない僕も僕なんだけど。

「広瀬さん、ご無沙汰してます。」

父が明るく手を挙げると、この中でも質の良さが分かるスーツを着たおじさんがやってきた。

吊り上がった鋭い眼光。深く刻まれた皺。
口元は笑っているから、怒っているわけではなさそうだ。

「倉敷の2番目のお嬢さんが四男の同級生でしてね。
あぁ、紹介が遅れました。息子の聖です。」

背中を押され、進まない足を無理やり前進させられた。
――目の前に来ると、迫力が増して怖い。

「榛名聖、です……。10歳です。」

「私の息子と同い年だね。
真、お前も挨拶しなさい。」

刺す様な目が、彼の後ろに控えた着物が似合う綺麗な女性に向かう。
すると、背後から小さな男の子が顔を出した。


「広瀬真……です。
よろしく……。」


色白に坊ちゃんヘアの黒髪、女の子みたいな大きな猫目、細い体。

オドオドとした“広瀬”らしくない態度。


――本当に同い年?


「真、挨拶くらいちゃんとしろ。
それでも広瀬家の長男か。」

胸とお腹に響いてズッシリ刺さるような、そんな静かな声だった。
僕に向かって言われたわけじゃないのに、ごくりと唾を飲み込んだ。


“ガッカリだ”

――とでも言いたげに広瀬の父は、我が子に向かって溜息を吐く。

すると“真”は怯え切った顔をしてすぐに母親の影に隠れようとする。


「真。しゃんとなさい。」

だけど彼女はそれを許さない。
凛とした顔で“真”の背中を強く前に押し出した。


――黒い水面に、一滴の白が落ちる。
そわりと胸が動く音がした。


「――ねぇ、真くん。外で僕とお話ししない?」

もしかしたら。

この子は僕と“同じ”かもしれない。
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