姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「近江くん、だよねぇ?」
声に反応して、輝きのない黒目が俺の姿を捉える。
興味を引かせるように、人好きのする笑顔を作って彼の前の席に座った。
「急にごめんねぇ、あっ俺、榛名聖。聖って呼んで。
近江くんのことはー……そうだなぁ、
“涼ちゃん”でどう?」
ぴくり。初めて“涼ちゃん”の瞼が動いた。
「……その呼び方は好きじゃない。」
しかも喋った。
………相当嫌いな呼び方なんだ。
「え〜?いいじゃない。親しみやすくて〜。」
鈍感なフリをする俺を、感情の読めない目がじっと見つめる。
“ワザとやってるだろ”
そう言われたようでドキッとした。
けれど、涼ちゃんは何も言わずに諦めたように溜め息をつくだけ。
これが俺と涼ちゃんの初めての会話だった。