姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.141 聖くん
――10歳になる年の冬、俺の社交界デビューが決まった。
周囲の話を聞いていると、俺のデビューは少し遅いらしい。きっと今まで“広瀬の跡取り”として世間に出る及第点に及んでなかったのだろう。
俺と同年代の令息・令嬢がたくさん来るパーティーを選んだと母親にそっと説明された。
「初めてお会いする方もたくさん来るそうよ。お友達ができるといいわね。」
俺の襟を整えながら柔らかに微笑む彼女は、“広瀬の嫁”ではなく“真の母親”だ。
(お友達……)
母親のそんな姿を見て、そうはならないだろうと少し胸が痛む。
“広瀬の跡取り”として、“母親の息子”として。
重苦しいプレッシャーを抱えた先で出会ったのが、聖だった。
「榛名聖、です……。10歳です。」
周囲の大人たちのざわめきが遠くなった気がした。
俺の父親の圧にビビりながらも、愛想よく浮かべる柔和な笑顔。
地毛なのだろうか、色素薄めの茶色い髪がふわりと柔らかく揺れて、物腰の柔らかさが親しみやすさを醸し出す。
(本当に同い年……?)
聖の第一印象は、「穏やかで優しそうな、少し大人びて見える人」だった。