漂う花は、還り咲く

伊織side


——その頃。

文化祭の片付けが終わったあと。


たまり場には、いつものメンバーが集まっていた。


さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、空気が重い。


「……見てたな」

ぽつりと、凛月が言う。


「誰が?」

壁にもたれながら、聞き返す。


「他校のチーム。入口のあたりで、ずっとこっち見てたやつら」


その一言で、空気が変わる。


「……あいつらか」

千隼が小さく息を吐いた。


俺も、なんとなく引っかかってた。


文化祭に来ること自体は、別に珍しくない。

他校のやつなんていくらでもいる。


でも。

あいつらは違った。

楽しんでる感じじゃなかった。


屋台を見るでもなく、教室に入るでもなく。


ただ、周りを見てた。

——探してるみたいに。


「気づいてたなら言えよ」


「確証なかった」


短いやり取り。

でも、全員同じことを思ってる。


「ただ遊びに来た、って感じじゃなかったよな」


俺がそう言うと、誰も否定しなかった。


「……何探してたんだろうな」

結翔の低い声。


その問いに、少しの沈黙が落ちる。

そして。


「……海月だろ」


凛月が、淡々と答えた。


一瞬、空気が凍る。

「ここにいるって、バレてる可能性は?」

俺はそのまま続ける。


普段、顔は出さない。

喧嘩も、全部外でやる。


この学校で“海月”だと分かる要素は、基本的にないはずだ。


それでも。

「ゼロじゃねぇな」

千隼が短く言う。


「どっかで見られたか、嗅ぎつけられたか」

「面倒だな」


小さく息を吐く。

こういうのは、大体ろくなことにならない。


「……六花も、顔見られてる」


結翔のその一言で、空気が変わった。


さっきまでの“面倒”とは、わけが違う。


「……チッ」

凛月が舌打ちする。


「余計なもん巻き込んだな」

低い声。


明らかに機嫌が悪い。

俺も同じことを思ってた。


あいつ、ただ遊びに来ただけだろ。

なのに


変なタイミングで、変な連中と同じ場所にいて。


「どうする?」

晴が聞く。


少しの間。

そして。


「様子見る」


凛月が言った。


「下手に動けば、向こうに気づかれる」


正論だ。


でも


「ただし」


凛月が視線を上げる。


「六花には近づけんな」

静かな声だった。


でも、それだけで十分だった。


「何かあったら——すぐ潰す」

短く、はっきりと言い切る。


誰も、何も言わない。

言う必要もなかった。


……面倒なことになりそうだな。

小さく息を吐く。


さっきまでの文化祭の空気が、嘘みたいに遠い。

——嫌な予感しかしない。

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