漂う花は、還り咲く

晴が、私の前にしゃがむ。

目線が合う。


「後悔は」

一瞬、考える。

殴ったこと。
倒したこと。
怖くなかったわけじゃない。

でも。


「……ない」


そう答えたら、
晴はほんの一瞬だけ、目を細めた。


「じゃあ、それでいい」


それ以上、何も言わなかった。

私はベンチに深く座り直して、空を見上げる。

さっきと同じ夜なのに、少し違って見える。

私、戻れないのかな。

戦う前の自分には。


そう思って、
でもすぐに、別の考えが浮かぶ。

戻らなくていいのかも。

怖さを知ったまま。

躊躇も、迷いも、全部抱えたまま。


それでも、立つ。


「……ねえ」

小さく言うと、晴がこっちを見る。


「私さ」

言葉を選ぶ。


「次、また同じことがあっても……
多分、逃げない」


晴は少しだけ息を吐いた。


「だろうな」

否定しない。
止めもしない。


ただ、隣に立つ前提でいる。

それが、なんだか嬉しくて。


私は、もう一度深呼吸した。

< 77 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop