君の隣、1メートル

CHAPTER.0

【菜穂side】

――いつか私のもとに私のことが大好きな王子様が迎えに来てくれる。

私のことを最期まで愛し、守ってくれるかっこいい王子様が。


『ぼくね、おおきくなったらなほちゃんとけっこんする!』


小さい頃に指切りげんまんした約束。

私はずっとこの言葉に囚われていた。

今もずっと待ってるのに…。


「なーほー!起きなさい!春樹君来ちゃうわよー!」

お母さんの声で目が覚め、私の目元にはカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

昔の夢を見た。私が6歳くらいに春樹と結婚を約束する夢。あの頃は結婚することはずっと一緒にいる、って互いに思っていたから責任なんて何にも考えていなかった。

私は重たい体を起こし、ベットから抜け出した。自分の部屋を出て、リビングに向かう。

「お母さん、おはよう。久しぶりに夢見てた。」
「おはよう、菜穂。だから、全然起きてこなかったのー。ほら、早くご飯食べちゃいなさい!」
テーブルの上には朝ごはんが置かれ、お母さんはお父さんが食べた食器類を洗っていた。ちょうど椅子に座ったとき、弟の蒼汰がリビングに入ってきた。
「いただきます。あ、お母さん!今日、午前授業だったんだけどお弁当作っちゃった?」
「えー、そうだったの!?作っちゃったわよー。お昼どっかでお弁当食べてきなさいよ!」
お母さんは困った顔をしてお弁当を私の目の前に置いた。
「そうする!今日午後から春樹の練習試合見に行くからその時食べる!」
「本当にはる君と仲良いわね。でもお付き合いはしてないんでしょ?」
「母さん、こんなポンコツ菜穂姉付き合えるわけないじゃん!はる兄が可哀そうだよ。」
蒼汰が朝ごはんを食べながら茶々を入れる。
「っうるさいわね、バカ蒼汰!春樹はただの幼馴染なんだから、そういう目で見てないってば。」
「ふーん、ただの幼馴染ねぇ。まぁ、俺ははる兄のこと大好きだからどっちでもいいけど。ちんたらしてるとはる兄来ちゃうよ。」
家が近所のこともあり、幼い頃から一緒に登下校するのが当たり前になっていた。
私はハッと時計を見るともう7時15分。春樹が迎えに来てくれるのは7時30分ごろ。私は急いでご飯を食べて、学校に行く支度をした。

――ピンポーン…

春樹が迎えに来たチャイムが鳴り、私は急いで歯磨きをしていた。
「はる君、おはようね。今、菜穂呼ぶから待っててね!」
お母さんは玄関で春樹に声をかけ、玄関からお母さんが私を急かす。
「全然ゆっくりでいいですよ、菜穂焦ったら転んじゃうんで!」
「よくわかってるわね!さすが幼馴染だこと!あ、今日野球の練習試合なんだって?」
「はい!来月予選大会があるので。もしかしたら俺ベンチ入りできるかもしれないんで余計に気合入っちゃってます!」
「あーら!おばちゃんも嬉しいわ!それに比べて菜穂なんてはる君と違ってポンコツだし、見習ってほしいくらいだもの!」
「あはは、菜穂はそこが菜穂らしんですよ!」
お母さんと春樹は玄関で楽しそうに雑談をしていて、私は学校に行く支度が終わり、玄関に向かう。
「春樹ー!おまたせ!」
「菜穂、今日寝坊したんだって?どうせ夜更かししてたんだろ。」
「違いますー!じゃあ、お母さん行ってきます!」
「2人仲良くねー、行ってらっしゃい!」
私と春樹は家を出て、学校へ向かった。

物心ついた時には私の隣には春樹がいた。お母さん曰く、赤ちゃんの時に病院でお母さん同士が仲良くなり、そのまま私と春樹も仲良くなったらしい。幼稚園、小学校、中学校もすべて同じクラスで常に一緒に登下校をしていた。家も近所で家族ぐるみで仲が良い。小学生まで同じくらいだった身長も気づけばいつの間にか大きく抜かされていた。今では春樹は180センチの高身長で、私は155センチの低身長。また、春樹は中学生の時から始めた野球がきっかけで筋トレをするようになり、今では他の男子よりも筋肉が程よくついている。生まれつきの日が当たると茶色に見える髪色に、くりっとアーモンドのようなぱっちり二重、少しふわふわしている髪質に母親譲りの美形。客観的に見ると春樹はかっこいい部類に入っているし、学校の周りの子たちも春樹のかっこよさに惚れこんでいるところも見たことがある。それに比べて私はスタイルもよくないし、そこら辺にいる脇役みたいなパッとしない立ち位置にいる。春樹のことが好きな女の子たちにも指を指されたことは何回かある。でも、幼馴染という言葉が私のことを守ってくれる。

「なぁ、菜穂。今日の古典のミニテストの勉強したか?」
私はボーっと考え事をしていた為、いきなりの春樹の声掛けにビクッと驚いた。
「っあ、忘れてた!勉強してないとやばいかな?」
「あーあ、今回のテスト範囲すんごい難しかったぞー!菜穂補習プリント確定だな!」
春樹は小悪魔っぽく口角をあげる。いじらしく笑うこの顔を私は何回見ただろうか。
「学校着いたら死ぬ気で覚えるもん!」
「もー、そんな睨むなよー。菜穂ちゃんのとーても可愛い顔が台無しだぞ。」
春樹はそう言って私のほっぺを突いた。客観的に見たら私たちはどう映っているのだろうか。ただの仲が良い友達なのかな。
「うるさい、春樹!あーあ!私の可愛い頃の春樹はいなくなっちゃのかなぁ。」
「俺は今でも天使のままだぜ!天使すぎてキャーキャーされちゃって、もう大変なんだから!」
「春樹、女の子たち雑に扱うといつか刺されちゃうからね。最近の子たちは怖いんだから。」
「おぉ、こっわ!菜穂だけは俺のこと守ってくれるもんな!」
春樹はニコッと笑い、大きな手で私の頭をポンポンした。ふいの頭ポンポンだった為、私はかぁっと顔が熱くなった。

――何十年一緒にいても、やはりふと頭には周りからどう見られているのかが気になっていた。いつか春樹が彼女とか作っちゃうのかな。もし、私が春樹に気になっている事を伝えても春樹が別の人のことが好きだったらきっと距離が置かれちゃうかもしれないし。最近この悩み考えちゃってモヤモヤしちゃう。

学校の門が見え、登校する生徒の数もだんだんと増えていく。
「なーほ!はーるき!おはよっ!」
後ろから明るい元気な声が聞こえ、振り向くと私の親友の楓が大きく手を振ってこちらに走ってきた。楓とは中学生の時からの仲で健康的な小麦色の肌と本人曰く地毛の赤茶色のショートカット、髪色と同じ色の瞳は大きく、身長が高いのに胸やお尻など欲しいところにお肉がついているためスタイルがとても良い。
「おはよう、楓。あ、今日の古典のミニテストの予習した?」
「え、今日テストあったの!?なんにもしてない!やばい!」
楓はいつも声が大きく、身振り手振りも大きい。なんでも正面衝突してしまう性格だけど、負けず嫌いで最後までやり通すかっこいい一面もある。
「楓も菜穂と同じ補習プリントコースだな!2人揃って仲良いな、お前ら。」
春樹はまた小悪魔っぽい笑顔を浮かべ、下駄箱から自分の上履きを出す。
「は、春樹くん…!」
下駄箱の影からピョコっと小柄な黒髪をゆるやかに巻いた色白の女の子が出てきた。
「あ、あのこれもしよかったら今日の試合の時に食べてね…!」
女の子は春樹に紙袋を渡し、顔を赤らめながらササっと走って行ってしまった。
「朝からモテてますねぇ、春樹どん。」
ニヤニヤしならがら春樹の腕をつつく楓。
「みーんな俺に夢中なのは知ってるっつーの。」
春樹は紙袋をジッと見つめ、また意地悪そうに笑った。
「うざ!にしても、さっきの子確かC組の藤野さんじゃないの?隣の席のサッカーバカが可愛いって騒いでたわ。」
「翔太がぁ?あいつまじでいろんな女の子のこと見すぎ。」
「春樹には菜穂がいるんだし、よそ見しちゃダメだからね!」
楓はそう言って私の肩をたたいた。
「確かに菜穂は俺がいなかったら寂しくて死んじゃうもんな。」
春樹はニヤッとしながら紙袋を持っていない手で私のほっぺをつついた。
「し、死なないもん!楓も変なこと言わないでよ!」
私は春樹の胸にポンっと叩いた。顔が熱くなるのが分かる、きっと顔真っ赤なんだろうな私。それに幼馴染以上のことを言われるとどう答えていいのか分からなくなっちゃう。
「ほーらほら、菜穂も春樹も早く教室行くよー!」
「お、置いてかないでよー、楓。」

――春樹にとって私はただの幼馴染なのかな。あぁ、ダメだ。また考え始めちゃう。さっき春樹に差し入れしてた藤野さんはThe 女の子って感じで最初から最後まで存在感がはっきりしていて私はただ茫然と立っている事しかできなかった。例えるなら、藤野さんはお姫様みたいに主役だけど、私はそこらへんに立っているだけのモブキャラ…。ダメだ、マイナスのことしか出てこない。私がもっと自信があったら良かったのにな。

古典の授業が終わり、これで今日の学校はおしまい。結局、私と楓どちらも古典の補習プリントをもらった。
「じゃあ、あとでな2人。仲良くプリントやってな。」
もちろん春樹は補習プリント貰うことなく、悪意のある顔で教室から出ていった。今日は職員会議の影響でお昼で学校が終わり、春樹は練習試合の準備や練習のために部活へ。もう少し時間が経ったら私と楓は練習試合が行われる学校から近い球場に向かう。
「ねぇ、楓。私って魅力ない?」
「もー、どうしたの菜穂。菜穂には魅力たくさんあって溢れかえってるよん!」
楓はニコッと笑って、無邪気にお菓子を食べる。
「もぉ、ちゃんと答えてよー!真剣なんだから!」
「そんなプリプリしないでってば!本当なんだからさ!」
「…私も髪巻いてみようかな。」
私はボソッと言い、胸上の髪の毛を指でくるくるとしてみた。
「あ!まさか、朝の藤野さんのこと根に持ってるの!?ばっかだなぁ、菜穂って!菜穂はありのままがいいんだよ。」
「うーん…、すごい女の子っぽかったなって。女の自分でも見とれちゃったから。」
「私から見たら菜穂も十分女の子だよ。心配無用!それに春樹はああいう着飾った系好きじゃないと思うし。しかも、さっき春樹さ翔太に馬鹿野郎って怒られてた。」
「どうして?」
「なんで藤野さんから話しかけてきたのに連絡先とか交換しないんだ馬鹿野郎!って。ただの嫉妬よ、バカ翔太の。」
この話を聞いて心の中で少しホッとした自分がいたのが分かった。
「だから菜穂もちゃんと自分に自信持ちなさい!そして今年中に春樹と付き合いなさいよ!」
「だってぇ…、もし付き合えなかった時距離置かれそうで怖いんだもん。無理無理!!」
「大丈夫だってば!むしろ今みたいに一生モヤモヤしてる方が気持ち悪いでしょ!」
はっきり言う楓に私はどうすることもできずに机にうつぶせになる。

―――私たちは”幼馴染”だから一緒にいるだけなのであって、それ以上を望んでしまうと関係が壊れてしまうと思うだけで不安でどうすることもできなくなってしまう。中学校の時から春樹は周りの男子よりも女子からの好意が多いことは気づいていたし、でもだからって私はどう行動することもできなかった。








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