キミに憧れたから

元カレ

茶髪の髪と紫を薄く含んだ瞳、やわらかくて心地のいい雰囲気。

私の目の前にいるのは、間違えなく元カレの聖生涼真(せいしょうりょうま)だった。

前に電話をかけてきた奴だ。

「彼氏いたのかよ。先に言えよな」

さっき絡んできた男達は、涼真を見るなりどこかへ行った。

それと同時に周りがうるさくなる。

「ねえ、あの制服ってマーレ学園の?!」

「絶対そうだよ!」

マーレ学園というのは、アウロラ学園の姉妹校で同じくらい偏差値の高い学校だ。

そのおかげでとても有名で目立ってしまっている。

「初音…」

でも、周りのことなんて気にならないくらいだった。

まるで世界に2人だけ…みたいな錯覚を受けた。

「どうして…涼真がここにいるの…?」

「好きな女の文化祭にきちゃ行けなかったのか?」

「っ…!ふざけないでよ…!!私は涼真をフったの!だから…」

取り乱して起こり始めた私を、涼真は抱きしめた。

私は何もしゃべらなかった。

何が起こったのか分からない。

私は涼真を捨てたも同然のことをしたんだよ?

恨んでもいいのに。

「ごめん」

どうして、そんな優しく声をかけるの?

「初音…!」

私と涼真を引きはがしたのは、どこからか来た雪那だった。

今度は雪那が私を抱き寄せて涼真を警戒する。

「雪那…!私は大丈夫だから…」

「じゃあなんで泣いてるだよ…!」

苦しそうな表情で見つめられて、自分の頬に涙がつたっていたことに初めて気がつく。

自分でもなんでか分かんないよ。

「あんた誰っすか」

「俺は聖生涼真。初音の元カレだよ」

「っ…!」

雪那はそれを聞いて、また苦しそうな表情をした。

それから、私の腕をひいた。

「行きましょう。初音先輩を泣かした人なんか放っておいていいです」

歩き出した私達を涼真は止めなかった。

そのまま私は雪那に連れられるまま、ひたすらに歩いた。

裏庭まで来たところで、私は雪那に声をかけた。

「ねえ、雪那」

雪那はぴたりと止まって私の方を見た。

涼しい風が吹いて心地いいはずなのに、雪那の表情のせいで悲しいものに変わってしまう。

どうして雪那がそんな顔をするの?

「初音先輩は今でもあの人のことが好きなんですか?」

「へ…?いやいやないない!てか、私が好きで付き合ってたわけじゃないし!」

「そう…なんですか?」

驚いたように目を見開いている。

でも、元カレって聞いたら普通好き同士だったって思うよね。

私は恋心が分かんないんだ。

付き合ってって言われたから付き合う、それだけのこと。

それで孤独だった心を埋めようとしただけ。

雪那にそう説明すると、ほっとしたような表情を見せた。

「焦った…。初音先輩のことになると、俺おかしくなるんです」

雪那が自分の顔が見えないように手で覆ってしまった。

それから少し経って、雪那が私に聞いた。

「ね、先輩。困らせていい?」

「え?」

優しく笑った後、私には返事をする暇もなく口をふさがれた。

口に当たる柔らかい感覚がある。

なに、これ…。

少しずつスローモーションにでもなったかのような雪那の顔が離れていく。

もう一度雪那が笑った時、私はキスをされたのだと理解した。

「明日のミスコン楽しみにしてますから」

そう言い残して、雪那はどこかへ行ってしまった。

私はまだ唇に残った感触が離れなくて、その場を動けずにいた。
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