憧れだった貴方と恋をする〜左小指のピンキーリングは素敵な恋を引き寄せる〜
「あの……」と小声で声をかけた。
佐野くんはびっくりして頭を起こした。
「ごめんなさい、びっくりしましたよね」
凄くびっくりしたのか、軽くハアハアと息をしていた。
汗もかいたのか、さっきのおしぼりをもう1度顔に当てていた。
もうぬるくなっていたのに、佐野くんも恥ずかしかったようだ。
「もしかして……俺、寝てた?」
佐野くんの小さな低い声がさくらの耳に届いた。
さくらが他のお客様の迷惑にならないように佐野くんに近づいて話していたからその距離にさくらの心臓は緊張でドキドキが止まらなかった。
「……はい、多分」
「はぁ…ごめん」とため息をつきながら言うとポケットに手をつっこんで何かを探している。
「あれ?財布がない……」
Tシャツにジャージの佐野くんは両方のポケットに手を入れていた。
ポケットは2つしかないし、スマホはテーブルに置いてある。
「あの、キャッシュレス決済でもできますよ」
佐野くんはスマホを触ると「充電切れてる……やべぇ」
髪をかきあげて私の顔を見た。
さくらは思わずドキッとした。
佐野くんはキョロキョロと店を見渡して「今何時?」と聞いてくる。
「もうすぐ3時です」
「あっ練習が…、やべっ……あの同じ講義取ってる人だよね、ごめん!」
佐野くんに頭を下げられた。
あの佐野くんが私の事を知っていてくれたんだ、同じ講義取ってるって…
話したこともないのに…
女子に注意をした時に目が合っただけなのに…あっ、だから逆に覚えられてたのかな?
あの注意した出来事があってから憧れの佐野くんとは話せる訳もなく夏休みに入っていたのだ。
注文書をさくらは取った。
「じゃあ夏休み明けまで貸しで(笑)」
「ごめん!必ず返すから」
両手を合わせて謝ってくれて、佐野くんは急いで店から出ていった。