はじめまして、好きです。
はじめまして、好きです。

『はじめまして、好きです』ーー出会いは突然に

 春の匂いがする風が、少しだけ制服のスカートを揺らす。
 でも、私はそれを感じるふりをしながらスマホの携帯を眺める。

 新学期?クラス替え?そんなのどうでもいい。
 誰が私の隣になろうと、私には関係ないから...

 だって——もう誰にも、期待しないって決めたから。

  その時だった。

 ガラッ、とドアが空いて、

 「.....はじめまして、好きです。」

  黒板の前に立つ、まだ名前も知らない転校生がまっすぐに——私を、見ていた。

 教室がざわつく。

 「えっ告白?!」
 「澪に告白?」

 ざわめきの中、私の友人のひとりが——

  「澪!あんたいつの間にイケメン捕まえてたのよ!」

 と、からかい気味に言ってきた。

 私は肩をすくめて、
 「イケメンを捕まえたおぼえはないよ。私の過去知ってるでしょ?」

 とだけ返す。
 本当に、あの転校生と会ったことなんて一度もないし、
 もちろん、見たこともない。

 私は嘘をついてない。それだけは、顔に出しておいた。

 そのとき——

 黒板の前にいた転校生が、無言でこちらに向かって歩き出す。

 「あんた!名前は?」

 .....は?
 思わず聞き返しそうになったけど、無視するのもどうかと思って答える。

 「一ノ瀬 (いちのせみお)...で、あんたは?」

 転校生は、ニッと笑って、まっすぐ目を見つめながら言った。

 「俺は、九条 颯真(くじょうそうま)
 「澪、俺はお前のことが好きだ。」
 「付き合ってくれ。」

 一瞬、教室の空気が凍った。
 私はと言うと─
 「は?無理。」

 その一言で済ませた。
 でも、彼はめげる様子もなく、むしろ笑顔で——

 「振られたー、けど俺諦めないから。絶対振り向かせるから。これからよろしくな。」

 と言ってのけた。

 私はその顔を見ながら、心の中で呟いた

 (...これから、めんどくさそうだな)

 まさか、
 新学期早々に、名前も知らない相手から告白されるなんて。

 しかも断ったのにめげないとか─ほんと無理。

 でも、
 この時私はまだ知らなかった。
 この"諦めない男"が、
 私の閉じた心を、少しずつ、少しずつこじ開けていくことを。

 ─続く
< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop