逃れて結婚したい若女将と寄せて斬りたい医学生
「あ! 流れ星!」

「タマノコシ、タマノコシ、タマ…! あーん、言えなかった。」

高校生活最後の夏祭り。浴衣で花火を見にきていた千尋(ちひろ)は、お友達が見つけた流れ星に、急いで願い事を唱えました。

「なに? タマノコシって?」

「うんとね、大金持ちの結婚相手!」

そう答える千尋の後ろには、花火の光に照らされたお団子屋さんの出店が出ています。

ーー福々庵。

千尋のお家のお店です。

「結婚って、ちーちゃん、イイナヅケと結婚して、福々庵の女将になるんでしょ?」

そうです。
話せば長くなりますが、福々庵の制服を仕立てているのはお母さんの弟である松本(まつもと)さんという呉服屋さん。そこと取引のある老舗料亭の加藤(かとう)さん。その加藤さんの三男坊を婿に取り、仲良く福々庵を継ぐ。それが物心ついた頃から言い聞かせられた千尋の人生でした。

「そんなの、いや。あと今どき団子屋なんてダサいし、もう潰れるだけだもん。」

「ぶっちゃけ、そうだけど、どうするの? 卒業したら結婚っておじさん言ってなかった?」

「うん。そうなの。」

千尋は草むらにしゃがみ込みました。家を逃れるには、もう、時間がないのです。

「ねえ、いいこと思いついた!」

お友達が提案したのは、東京への修行です。「本場のお団子を学んでくる〜」とでも言って、飛び出せばいい、と。

「うーん。なんか、ありきたりだし、第一、それだと修行先を世話されて、修行が終わったら戻って女将、まっしぐらだよ。」

「そこを強引に、ゴールイン! とはできないか…。」

そう。千尋はそういう強引さが弱いのです。クラスで1人しか立候補できない生徒会も譲ってしまうし、横断歩道に車が来たら先に行かせてしまうのです。

「ね! こんなの、どう?」

千尋がヒソヒソ話で伝えると、お友達は川に溶けそうなくらい真っ青な顔になりました。

「そ、そんなの、おじさん怒らないかな?」

「事実だもん。怒ったところで私の提案を聞いたら、救世主みたいに見えるんじゃない?」

「そうかもだけど、めっちゃ賭けだよ? わかってる? あ、また流れ星!」

お友達が指差す先には確かに流れ星が流れています。

「タマノコシ、タマノコシ、タマノコシ! やった!! 言えた!!!」

「へぇー。玉の輿、ね。」

流れ星の下を通ったのは(みなと)でした。
彼も同じく高校3年生。千尋とは産まれた日が1日しか違わないのに、その身長差30cm! いつも見上げる存在です。

「玉の輿って、いわゆる3高だろ? オレは身長高くて、医学部に行くから高学歴。さらにその先医者で高収入。ふふふ。」

「へい、みたらし団子、いっちょ上がり!」

なんと湊は福々庵の出店に並んでいたのです。

「ありがとうございました。」

ーー未来のお義父(とう)さん。

心の中でそう呟いたのか、ニヒッと口角がつりあがっています。そのまま千尋たちの少し後ろの河原に座り込むと、腹を抱えて笑い始めました。

「んなわけ、ねぇーよ! オレ、結婚なんてしねぇーから! オレが稼いだ金、他人に使うなんて有り得ねぇーから!」

通行人が引くほどゲラゲラ笑いながら、湊は大口を開けてみたらし団子を堪能しました。
その数、丸っと10本です。
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