恋うたかるた

“だめだろ、今移ったりしたら大変なんだし…”

“わかってます。でも心配で… あの…、買い物済んだらすぐ帰りますから”

“わざわざ来てくれたのに申し訳ないね…”

“いえ、おひとりで大変だろうと思ったので…”

 沢田に渡されたメモを受け取ると、ついでですからと言いながら冷蔵庫を確かめさせてもらうと案の定、その中に野菜類はほとんどなかった。

(何か温かいものを作っておこう)

 頭の中で必要なものを考えながら、彼女は出かけた。


 買い物を済ませて志織が戻ると、リビングの掃き出し窓が開け放たれていた。

「そんなに開けたら寒いでしょ」

 思わず志織の口調が強くなった。

「いや、空気入れ替えないとね」

「もう閉めて下さい、風邪引きますから」

「もう引いてるよ」

 沢田はそう言って笑いながら窓を閉めた。



 測ってみた沢田の体温は確かに微熱ではあったので志織は少し安心した。。

「あの… お洗濯物とかありませんか?」

「明日まとめてやるから…」

「わたし、して帰ります!」

 断る沢田を押し返した志織は、勝手を知った脱衣所へ向かうと洗濯機を覗いてから、その少なさに驚いて彼に声をかけた。
  
 

「これだけですか?」

「うん、どうして?」

「もしかして毎日洗濯されてるんですか?」

「そうだよ、遅くなる日はやらないけどね」

 男ひとりの所帯で、まさか毎日洗濯されているとは志織は思ってもいなかった。


 買い物に出る前に冷蔵庫を確かめておいた志織は 洗濯機を回している間に食事の準備を始める。
 
 豚肉に冬野菜、こんにゃく… 

「同じようなものですみませんけど、今夜と明日、温めて食べて下さい」

 手っ取り早くけんちん汁と豚汁を作るとタッパーに小分けして冷凍庫と冷蔵庫に入れ、脱水の終わった洗濯機からシャツだけ取り出してハンガーに吊るし、ほかのものを乾燥機に入れ始めた。

(彼はブリーフ派なんだ…)

 黒のビキニブリーフを見ながら、自分の下着と並んで干されている様子をふと想像した志織は自然と笑みがこぼれ、なんとなく幸せな気持ちになっていた。

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