感情なんて無駄だと信じてた僕に、君はその存在を証明した

第4話

数日後の放課後。

教室の布告欄には、体育祭の大隊リレー選手の発表が貼り出されていた。

けれど、葶驀は一瞥もせず、いつも通り教室を出る。校門をくぐる、そのとき――

「どうやって教室を出たの? 一度も気づかなかったから、走って追いかけたよ!」

渃嫣の声が後ろから飛んできた。

「いつも通りだよ」

葶驀の返答は、あまりに淡白すぎた。

「全然存在感ないよね……」

渃嫣は呆れたように嘆息する。

「存在感の定義と単位って何だ?」

葶驀は、まるで本当に疑問に思っているような口調で問い返した。

「知らないよっ!」

二人は並んで歩きながら、しばらく無言になった。

「ほら、私は選ばれたよ。林くんは19番、私は10番」

渃嫣はスマホを取り出し、写真で撮っておいた発表表を見せてきた。

「おめでとう」

葶驀は感情ゼロで告げた。

それが余計に気に入らなかったのか、渃嫣はむすっと唇を尖らせる。

「ねえ、先にあのコンビニまで競争しようよ。負けたら飲み物奢って!」

そう言い終えると、渃嫣はすぐに走り出した。

どうやら、こうすれば葶驀でも追いつけないと思ったらしい。

コンビニは学校からそれほど遠くない場所にあったため、二人はすぐに到着した。

葶驀は店に入り、冷凍庫からアイスキャンディーを二本取り出した。

会計を済ませると、イートインスペースの一角に座った。

しばらくして、飲み物を手に戻ってきた渃嫣が、葶驀の前にカップを置いた。

「ほら、あげる。」

渃嫣は明らかに不満そうな顔をしながら、飲み物のボトルを葶驀に投げ渡した。

「フライングしたのに負けるなんてね。」

葶驀はそう言ったが、顔には笑みも怒りもなく、ただ何を考えているのか分からない表情を浮かべていた。

「うるさい!」

渃嫣はわざと怒ったふりをして言った。

葶驀は、自分の持っていたアイスキャンディーを差し出した。

「はい、アイス」

翠綾は驚いた表情を浮かべ、信じられないというような目で術潭を見つめた。

「クラスの大隊リレーの代表になったお祝いってことで」

術潭は淡々とそう告げた。

翠綾はアイスを受け取り、それを見つめながら、何か言いたげに口を開きかけた。

「どうかした?アイス苦手だった?だったら、代わりに俺が食べようか」

術潭が不思議そうに聞く。

「ううん、違うの。ただ、その……体育祭の日、時間ある?行きたい場所があるの。」

翠綾はどこか恥ずかしそうに、ためらいがちにそう言った。

葶驀は、特に予定もなかったし、学校行事を避けているわけでもない。

「空いてるよ」

いつもの口調で、そう答えた。
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