合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない
 彼は顔の角度を変えながら口づけをやめない。吐息とともに漏れ出る声が愛しい名を呼んでいるようで、脳が芯から蕩けそうだ。
決心など投げ捨てて、なりふり構わず彼を求めたくなる。

 でも、なけなしの理性がストップをかけた。

 自分たちは最初から終わりが決まっている仮初の夫婦にすぎない。これ以上近づいたら彼から離れるときに心が張り裂けてしまう。
 縋りつきそうになった腕を止め彼の胸を押すと、唇が離れた。

「なんで……」

 キスなんてするの。そして私は受け入れてしまったの。

 気持ちがごちゃまぜになって言葉が出てこない。

 鈴菜の肩に手を置いた彼の瞳は揺れていて、いつもの余裕を失っているように見えた。

「鈴菜、俺は――」
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