合理主義者な外科医の激情に火がついて、愛し囲われ逃げられない
 増田に〝自分たちはまだ初夜も済んでいないんですよ〟と言ったらどんな顔をするだろうか。

 パーティの夜も疲れた彼女を労わりたかったし、いきなり押し倒すのは余裕のない男のやることだと虚勢を張った。その後もお互い忙しいのもあり、なんとなくタイミングを掴めず、軽いハグやキスはしているがそれ以上には進んでいない。

(そもそも論文や学術資料だらけの俺の部屋に病院嫌いの鈴菜を連れ込むわけにもいかないしな)

 とはいえ愛しい妻と別室で眠り手を出せないというのはなかなか辛いものがある。
 今朝も出がけにキスをしたら危うく止まらなそうになった。頬を赤らめ上目遣いで睨みつけられたが、あれがどんなにかわいくてこちらの理性を崩すか彼女はわかってやっているのだろうか。

(しかし、俺が思春期みたいなことで悩むときが来るとはな)

 顔が緩んでいたのだろうか、こちらを見た増田がいきなり「はー」とため息をついた。

「幸せそうでなによりだよ。僕もいい子探さなきゃ」

「……あまり〝面倒事〟ばかりに詳しくなるのもどうかと思いますよ。修羅場で刺された先生の処置はごめんです」
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