(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー

1話 道に迷ったお姫様

 白雪姫という物語に出てくるお姫様は華奢で、よく笑い、白雪のように透き通った肌をしているというのが鉄板だ。
 だけど、そうじゃない世界があっても、きっと悪くはないだろう。

「やばい、このままだと間に合わないかも……」
 その日私、朱谷りんごは珍しく寝坊して、大学の一コマ目に遅刻しそうで慌てていた。
 こういう日に限って必修科目なのだからとことんついていない。
「でもギリギリ間に合いそ……う……」
 もう少しで教室にたどり着く、そんな時に限って周りというものをよく見ているもので、私の目はあからさまに困った様子の一人の青年を捉えていた。
「あの人は……」
 その人は、そこまで広くないこの大学の中でもたまに見かける人で、そうじゃなくてもそれなりに有名な人だった。
 悪い意味で。
「……」
 無言でひたすらキョロキョロと周囲を伺っているその人は白雪姫。
 190センチを優に越える身長の大柄な男性だがおそらく本名。
 その名前と大柄な高身長、そして基本的に誰に対しても無愛想なせいで色々と噂のやり玉に上げられやすい人。
 聞くのはいつもそんな彼の悪い噂ばかり、授業にも遅れそうだしそういう人と関わりを持っても良いことなんてない、そうやって自分を正当化するのは、いつだって簡単なことだ。
「白雪、くんだよね? どうしたの? なにか探し物?」
 私は白雪くんに近寄ると出来るだけ固くならないように声をかける。
「っ……あ、え、その……」
 そうすれば驚いたようにこちらを見た白雪くんはしどろもどろに言葉を漏らしながら視線をさ迷わせる。
「……何か探してるなら手伝うけど」
「………………だ、第三講義室の場所が、わから……くて」
 もう一度そう聞き返せばなんとか聞き取れるぐらいの声量で白雪くんがそう呟く。
 視線は地面に縫い合わされてこちらを見ることはない。
 どうやら探していたのは教室だったようで、白雪くんは確か同じ二年生。
 二年も通っていれば第三講義室には何度も行ったことあるだろうに何故こんな場所にいるのだろうか。
「だ、第三講義室、で、あってる?」
「……」
 一応聞き返すも白雪くんはコクりと頷くだけ。
「それならこことは真逆だけど」
 そう、第三講義室はそもそもこの建物ではないし、なんなら真逆である。 
「……あ、え、そう……なんだ」
 私の処刑宣告にあからさまに白雪くんの顔色が陰る。
「……ついてきて」
 私はそれだけ言うと歩き出す。
「……え?」
「白雪くん一人だとたどり着けなそうだから、送ってあげる」
 驚いたような声を小さく漏らす白雪くんに私は手っ取り早くその主旨を伝える。
 別に、白雪くんだからとか、困っている人は頬っておけないとか、特段大きな理由があったわけじゃない。
 ただ……
「……」
「どうしたの? 早く行こ」
 捨てられた子犬みたいに廊下で立ちすくむ彼が、昔の……転勤族だった私の小さい頃とダブってしまった。
 それだけの話だ。
「……」
 私が笑顔を努めてもう一度促せば白雪くんは黙って私の後を追うように歩き出した、そして
「……ありがとう」
 その固い表情を少しだけ緩めて、白雪くんがこぼした言葉はちゃんと私の耳には届いていた。
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