FF〜私があなたについた嘘〜
七つ目の嘘
 柱
 合宿所(海辺の民宿)

ト書き
 真夏、汗をかきながら荷物と楽器を持ちながら合宿所(というなの民宿)へ

モブ「着いたぁ」

ト書き
 合宿係の案内に従い、宿泊部屋に荷物を置くと、練習場へ指定されている部屋へ譜面と楽器を持って移動

ト書き
 十畳ほどの宿泊部屋兼パートごとの練習場
 畳の上に車坐になり、パートリーダーからの指示を譜面に写す作業

モノローグ:誌香

1時間ほど、パートごとに固まってミーティングをした。
 指揮者やコンミスから受けた指示をリーダーから教わって、自分の譜面に書いていく作業に没頭した。

ト書き
 入浴場、大広間での食事

モノローグ:誌香
 それが終わると入浴と夕ご飯。それが終わったら、いよいよ合奏だ

ト書き
 ホールには指揮台を中心に、放射線上に譜面台、椅子が置かれている。

モノローグ:誌香
 楽器と譜面を持ってホールに入っていくと、そこかしこでチューニングをし始めていて、厭でも気分が高揚してくる。

ト書き
 譜面台、椅子の中で誌香が楽譜を広げ、楽器を太ももの上に載せ、足台に足を載せる。

モノローグ:誌香
 私も譜面をセットし、足台を調節した。チューナーを共鳴版に挟んで音を整えた。

ト書き
 チューニングする音がそこここから聞こえ始める。

ト書き
 松本が指揮台に上がる

モノローグ:誌香
 時間になり、松本が指揮台にあがり、コツコツと指揮棒で譜面台を叩いた。
 皆がチューニングを止めて、しんとする。
 メンバーの眼が中央に居る、松本に集中した。さっと手を振られて、皆一斉に起立する。

松本「秋の定期演奏会に向けて、夏合宿を始めます。よろしくお願いしますっ」
全員「よろしくお願いします!」

ト書き
 松本以外、着席
 皆、キリリと引き締まった顔をしている

松本「賛助さんは22時過ぎに見える予定だ。それまで形にしていくぞ!」

ト書き
 松本が順繰りにみんなを見渡していく。
 コンミスにアイコンタクトをして松本が正面に向き直る。

ト書き
 松本と、眼が合う誌香

ト書き
 彼が棒を振り上げ息を吸い込んだ瞬間、皆も息を吸い込む。

ト書き
 指揮棒が振りおろされ、まさに皆の弦が音を紡ぎ出そうとした瞬間、松本がストップした。

ト書き
 がたた、とモブ数人がずっこける真似をする。

誌香「?」
周囲「なんだ、どうした」

モノローグ:誌香
 空気がざわめく中、松本は指揮台を降りながら着こんでいたジャージを脱いだ。

ト書き
 細い割にシックスパックの上半身が顕わになった。ときめく女子達。

モブ男「あいつ、いいカラダしてんな」

ト書き
 ざわめきと皆の注視の中、松本は指揮台を降りた。
 バサッとジャージを頭から被せられる誌香。

誌香「え?」
モブ「おおっー」

モノローグ:誌香
 不思議に思ってジャージの中を確認した。


ト書き
 洗いすぎてテロテロになったTシャツから、ピンクのブラジャーがくっきりと映っているのが確認できた。おまけに、大きく開いた襟ぐりからは胸の谷間がきっぱりハッキリ見えている。

ト書き
 気づいた誌香真っ赤になった

モノローグ:誌香
 やば。
 お風呂入って寝る時用のTシャツを着ちゃってた!

誌香「……大変、失礼をば!」

ト書き
 ジャージをなんとか着込んだ誌香、しどろもどろで謝る。

モノローグ:誌香
 私ったら、料金を貰うのではなくて、罰金を取られちゃうよ!

ト書き
 ヒューヒューと揶揄いの口笛が、そこここで吹かれた。
 誌香の耳や頬がカーッと熱くなる。

松本「始めるぞ!」

ト書き
 指揮台に飛び乗った松本が怒鳴った。

ト書き
 やや乱暴に振り下ろされた指揮棒と同時に、ジャン、と音楽が始まった。

モノローグ:誌香
 ふと見ると、ブンブンがこちらを見てニヤニヤとしている。は、と思って周りを見ていると、他のパートの人間もニヤニヤとしていた。『平常心!』と唱えながら私は、次の休憩になったらダッシュで着替えてこようと思っていた。

ト書き
 指揮台に立っている松本を、数列後ろから見上げる誌香。
 真ん前のパートに座っている誌香からは、彼の上半身ヌードがしっかり見える。

モノローグ:誌香
 ……それにしても。松本ぉ、目の毒だよぉっ。
 私は焦りまくっていた。

ト書き&モノローグ
 上下に動く喉仏、3Dに動く肩。
 大きく空間を切り取っていく腕。
 繊細な音を呼び出す指先。
 呼吸に合わせて弾む胸。
 割れた腹筋が膨らんだり、凹んだりしているのまで、バッチリと見える。

モノローグ:誌香
 お臍ってなんてエロいの!
 ジーンズのファスナー辺りの膨らみ。その下に続くモノを透視してしまいそうになる。
 なんの拷問なのーっ。

ト書き
 誌香、表面無表情。内面大パニック中

モノローグ:誌香
 ……どーして水着の男子の上半身にはドキドキしないのに。それどころか、隣のヤツなんて上半身マッパで下半身半ズボンだっていうのに。なんで松本だと下はジーパン履いているのに、鼻血出しそうになるのかな。

ト書き
 弾きながら、目は松本の指揮を追いながら、自問自答する誌香

モノローグ:誌香
 わかっている。松本だからだ。

ト書き
 休符で、楽譜をめくる必要もないとき、誌香は目を彷徨わせた

モノローグ:誌香
 それにしても、目のやり場に困る……。
 この時期は流石に暗譜している。
 だから、周りの人間が醸し出す音の波に、気持よくぷかぷかしていられた。指揮の息吹や振り下ろす瞬間に、集中していればよかった。なのに、安息時間は失われてしまった。

ト書き
 誌香は真っ赤になっている事に自覚がなかった。
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