「君に花を贈る」番外編……各所の花壇にて

day21.海水浴

 僕、須藤藤乃が初めて海を見たのは、小学生になる前の春休みだった。
 市場の帰りに、由紀のおじさんが僕と瑞希をトラックに乗せて連れて行ってくれた。

「でっっっかい!」

 すごく大きくて目をまるくしたら、隣の瑞希が得意そうに水平線を指さした。

「あっちにずっと泳いだらアメリカにつくんだよ!」
「ここは湾内だからつかねえよ」

 おじさんが市場で買ったお弁当を持ってベンチに座ったから、僕も瑞希といっしょに座る。
 食べてるあいだも、ザザーン、ザザーンって波の音がして、しおのにおいがふわっとしてた。

「あ、カニだ!」

 先に食べ終わった瑞希が海に向かって走っていく。あわてて食べて追いかけたら、瑞希が砂をほって水たまりを作ってた。

「海に入るなよ。着替えねえから」
「やだー!」
「バカ、瑞希!!」

 おじさんがあわてて走ってきたけど、瑞希はもう海に入ってた。

「藤乃も来いよー冷たくて気持ちいいよー」
「……うん!」

 瑞希を追いかけて、走る。
 はじめて入った海は、重たくて、青くて、足がグラグラした。
 いきなり大きな波がきて、全身びしょびしょになった。

「あはは」

 近くで瑞希もびしょびしょで笑ってて、おじさんはあきれた顔して肩を落とした。

「……まあ、夏休みどこも連れてってやれねえし……海くらい入ってもいいか……」

 でも仕事あるから三十分だけって約束して、瑞希と海で遊んだ。水をかけたり、カニさがしたり、石を遠くになげたりしただけだけど。
 帰ったら母さんにもあきれられて、風呂に入れられた。
 あとで聞いたら、瑞希とおじさん、けっこう怒られたんだって。


「藤乃ー、海行こうぜ」
「瑞希と行くとナンパされるからやだ」

 あれから二十年たったけど、今もたまに瑞希とふたりで海に行く。水はかけないけど、まだカニを探すし、石も投げる。

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