めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
20分ほどで無事にホテル セレストに到着する。

駐車場に車を停めると、大地は後部ドアを開けてさり気なく花穂の手を取った。

「えっ、ありがとうございます」

あまりに自然でスマートな振る舞いに、花穂は気づけば大地の手を借りて車を降りていた。

触れ合った手の温もりに、花穂の顔が赤くなる。

大地は何事もなかったようにトランクから荷物を取り出し、リモコンでピッと車をロックしてから歩き始めた。

花穂は急いであとを追う。

「あの、浅倉さん。私の荷物ですから私が持ちます」
「なんで? 触られると困るの?」
「いえ、そういう訳ではないですが」

すると大地はそのまま無言で歩き続ける。

花穂はどうしたものかと困り顔で、ひたすら大地の背中を追いかけた。

エレベーターで55階に上がると、ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を進み、バンケットホールに向かう。

重厚な扉の前で、50代くらいの黒いスーツ姿の男性がにこやかに出迎えてくれた。

「浅倉さん、お待ちしておりました」
「須崎さん、本日もよろしくお願いいたします」

大地は男性にお辞儀をしたあと、花穂たちを振り返る。

「紹介させていただきます。弊社テクニカル部の大森と、クリエイティブ部の川島、それから青山です」

大地の口から「青山」と自分の名前が出たことに、花穂はドキッとした。

「初めまして。ホテル セレスト副支配人の須崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

丁寧に名刺を差し出され、花穂たちも自己紹介して名刺を交換する。

「なるほど。川島さんと青山さんがあの演出を考えてくださったのですね。想像しただけでわくわくしました。実際にどんな空間に仕上がるのか、今からとても楽しみです」
「ありがたいお言葉、恐れ入ります。精いっぱい尽力いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」

そしていよいよバンケットホールに足を踏み入れた。
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