不幸を呼ぶ男 Case.1

【夜探偵事務所】

『Ivan Sokolovさんがグループに参加しました』
健太が最初のメッセージを送る
健太:『イヴァンさんですか?私たちはタキの友人です』
すぐに返信が来た
イヴァン:『タキは!?タキは無事なのか!?あいつは今幸せにしているのか!?』
健太:『タキは無事です。ですが記憶を失い悪夢にうなされています。あなたの助けが必要です』
イヴァンからの返信は即座だった
イヴァン:『悪夢だと…!?まさかあの『ドクター』の薬の副作用が切れ始めたのか!?』
健太:『ドクターを知っているんですね!?タキの過去に何があったのか教えてください!』
少しの間を置いて
イヴァンから返信が来た
イヴァン:『…分かった。全てを話そう』
イヴァン:『俺がタキと出会ったのは…』
イヴァン:『タキが16歳、俺が18歳の時だった』
画面の向こうで、イヴァンはキーボードを叩き続ける
15年間、誰にも話さなかった真実を
イヴァン:『初めてタキを見た時、同じ人間とは思えなかった』
イヴァン:『全ての訓練で、彼は誰よりも抜きん出ていた』
イヴァン:『俺は落ちこぼれだったから、よくタキに戦闘術を教わった』
イヴァン:『あいつは何も言わず、ただ手本を見せてくれるだけだったが、それが誰よりも分かりやすかった』
パソコンの画面を食い入るように見つめる璃夏
彼女の目には、若き日の滝沢と、彼を慕うイヴァンの姿が浮かんでいた
イヴァン:『俺たちは第十一部隊という同じ部隊にいた』
イヴァン:『だが、後になって知ったんだ』
イヴァン:『タキが、記録にない**『第零部隊』**という特殊部隊の人間でもあったことを』
夜の眉が、ピクリと動いた
イヴァン:『その第零部隊とは、ドクターという男が、薬物の研究も兼ねて『殺戮マシーン』を作り上げるための部隊だった』
イヴァン:『主な訓練は戦闘殺人術や暗殺術。人を殺すことだけを目的としていた』
健太はゴクリと唾を飲んだ
滝沢の悪夢が、現実の言葉として目の前に現れる
イヴァン:『俺がそのことを知ったのは、偶然、ドクターと元帥の会話を立ち聞きしてしまったからだ』
イヴァン:『タキに使われている薬の副作用……記憶障害と、感情の欠落』
イヴァン:『このままではタキが、ただの人形になってしまうと思った』
イヴァン:『だから、タキを軍から逃がそうと決めた』
璃夏の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた
親友のために、国家を裏切る覚悟を決めた男の姿に
イヴァン:『俺の地元は港町だ』
イヴァン:『そこで東京行きの貨物船が出る情報を掴み、あいつを乗せた』
イヴァン:『それが、俺とタキの最後の思い出だ』
イヴァンのメッセージは、そこで途切れた
事務所には、重い沈黙だけが残される
滝沢の失われた過去
そのあまりにも悲しい真実が
今、明らかになった
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