爛漫ろまんす!

胸騒ぎ

宮殿にて─────

「───この香り……」

鼻をすんすんとさせ、白龍(パイロン)は室内の匂いを嗅ぎ始める。
何処か懐かしいような……、しかし嗅ぎ慣れない《《人間》》の香りが混ざっている事に違和感を覚え始める。
その様子に周りに居た家臣達も白龍(パイロン)と同じ様に鼻をすんとさせると、直ぐ様鼻を抑え、中には嘔吐(えず)く者も居た。

「へ……陛下!!…嗅いではなりませぬ!!───ヴヴ……ッ!」

バタン!────と、家臣が一人…二人と、次々と倒れていく。白龍(パイロン)が家臣の一人を抱き起こすと、眼が♡マークに変形していた。

「これは…!───媚薬?」

「キキッ!」

「…お前は……────」

「キィーイ?」

首を傾げながら、白龍(パイロン)の目の前に現れた青い小猿は、何とも愛らしい表情を浮かべていた。
白龍(パイロン)は、この小猿に見覚えがあった。そう……それは───まだ完全に白龍(パイロン)(ロン)であった時代。五龍(ウーロン)の内の一匹・青龍(チーロン)が世話をして、手懐けていた蒼猿だ。

「うへ……うへへ……藍猿(ランホウ)様……」

抱き起こした家臣の口から聞き慣れない名前。
白龍(パイロン)は胸騒ぎを覚える。虫の知らせならぬ"猿の知らせ"というやつなのか───

「…藍猿(ランホウ)?───」

「キィ!キキキキッ!キィーキッ!」

「……着いて来いと……申すのか?」

「キィ!」

「まさか……青龍(チーロン)が?───」







「覚悟────」

「ひえぇぇぇぇ!?」

どうしよう……、黄龍(ファンロン)は完全に気絶しちゃってるし……────あたしには何が出来るの?……

「……」

おばあちゃん……こんな時、おばあちゃんだったら────

《冷静な相手程、隙がねぇ……───だからこそ、油断させるんじゃ……、それも……突拍子もない事でな》

(突拍子もない……───そうだ!!)

神美(かみ)は大きく息を吸い込む。

「…お猿のお尻は赤いのよ~♪なんてプリプリ桃のケツ~♪ずる賢いのは親猿がぁ~♪しっかり教育したからよぉ~♪あーらよいさモンモンキッキッ♪みんなお尻を出しましょいっ♪喧嘩した相手ともぉ~盃交わせば仲直りぃ~♪お友達ぃになりましょ~♪」

少し頬を紅潮させ、歌い切った神美(かみ)は恐る恐る藍猿(ランホウ)を見ると、何故か俯いて、肩を小刻みに震わせていた。

「あ……あれ?」

「プッ────…あははははっ!!ははははっ!はははっ!!ああ……ッ!!腹部が……腹部がっ!!」

「笑って……る?(え……意外に笑い上戸?とゆーか…笑いのツボが浅め?)」

「……ったく、笑い上戸なのは昔から変わってないわね」

「あ!黄龍(ファンロン)~!!涙 大丈夫!?」

「なんとかね…───あんたは……大丈夫そうね」

「えっへん!この通りっV」

「なぁーに威張ってんだか……。それより…───随分と手荒な真似するじゃないの?。どっかの馬鹿な《《赤い龍》》と《《黒い龍》》の影響かしら?───青龍(チーロン)

「フフフ……──彼等と一緒にされては、少々困りますかね」

「東を放棄してまで、此処に来た理由は何?。白龍(パイロン)龍仙女(ロンシィェンニュ)様の約束を忘れた訳じゃないわよね?」

「いや…黄龍(ファンロン)……人の事言えないよね?」

「何ですってぇ!?どの口がそういう事言ってんのかしらぁ~!?怒」

「いででででで!?ひょっほぉー!!ほおひっはははひへほ~!!(ちょっとぉー!!頬引っ張らないでよ~!!)」

「驚きました……、黄龍(ファンロン)が人間に懐くなんて…」

「はあ!?懐くぅぅ!?」

「これの何処が懐いてるの!?」

「ふふ、今は気付かなくても大丈夫ですよ」

「なんか……不思議な人だね……」

「此奴だけは、なーんか喰えないのよねぇ…。ああ……猿を手懐けてるだけでも恐ろしいって言うのに────ん?」

「キキッ?」

黄龍(ファンロン)の肩に。かなり小さい、青い小猿がいつの間にか乗っていた。

「わあ~、小猿だ~!可愛いっ」

「キィ~♪」

「ぎゃあああああああああ!?ちょ、ちょちょちょちょちょっと!!!この小猿なんなのよーーーーッ!!!!?」

「!…、お師匠!」

「おししょう?」

「キィーイ!キキッ!」

小猿が藍猿(ランホウ)の肩に飛び乗ると何かを必死に訴えかけ、藍猿(ランホウ)神美(かみ)を凝視する。

「───何をしている」

肩に置かれた力強く優しい手─────
庇うように、高貴な衣の袖で顔を隠された。風で靡く、美しい艶のある黒い髪───
そっと鼻腔に運ばれた、脳内に浸透するような白檀香の香りに神美(かみ)は胸がときめいた。

自然と紅潮する頬────そのときめいた人物の胸に、自然と顔を埋める体勢となっていた。

「……小龍(シャオロン)…!」

「大丈夫か?神美(かみ)……」

「あ、あ、あ、あたしはだ、だ、だ、だ、大丈夫!!!!」

「そうか……、なら()い。……百官含め、妃達に媚薬をかけたのは……───青龍(チーロン)…そなただな?」

青龍(チーロン)────
そう呼ばれた藍猿(ランホウ)は、白龍(パイロン)に頭を垂れて蹲う。

「…お久しぶりです、白龍(パイロン)……──数々の無礼をお許しください……。龍仙女(ロンシィェンニュ)様から戴いたお告げ……──そして、この後宮内に立て続けに起きた毒殺事件について……。」

「……あの悲惨な……事件の事か───」

「今まで、正妃として迎えられようとしてきた妃達だけが、必ず毒を盛られて死んで行ったと……老医達に聞かされました。……もしそれが必然であるとならば……、そちらの妃は殺されます。」

神美(かみ)を一瞥する藍猿(ランホウ)

「え…!?」

「しかし、妃達に毒を盛った下手人は捕らえた……。もうあの様な事は…起きない筈だ──」

「……それが偽物で、また別に指揮している者が居たとしたら?」

「何──!?」

藍猿(ランホウ)がゆっくりと開眼すると───媚薬が切れたのか、柘榴(シィーリオ)を始め老医や妃達が頭を押えながら起き上がる。
すると───白龍(パイロン)の顔を見た妃や老医達は甲高い悲鳴を上げた。


(毒殺事件……?)

「……」

「ねぇ、黄龍(ファンロン)……そんな物騒な事件があったの?───って、黄龍(ファンロン)…?」

黄龍(ファンロン)が憂いに満ちた表情で胸を抑えていた。
そして蚊の鳴くような声で

「ごめんなさい…………」

そう呟いた
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