噛みたいαと大きい背中

23 エピローグ

 学に初めて出会った時、王子様が目の前に現れたのだと思った。誰にも話しかけられなかった大学、一言も本を戻すのを手伝ってもらえなかった図書館。慣れてはいたものの、大きな本を本棚に戻すのはいつも一苦労だった。だから、椅子から落ちたときに誰かに助けてもらって、とても驚いたのである。

 おまけに、その誰かは見たこともないくらいのかっこいい顔をしていた。ふわりとシャンプーの匂いがする黒髪、長い睫毛、左目にある泣きホクロが目を奪う。しっかりと抱えてくれた強い腕も力強くてかっこよかった。

 ──めちゃめちゃかっこいい!

 私は目から星が飛ぶような感覚を覚え、あまりの衝撃にその場から走り去ってしまっていた。その日は星が飛んだまま全く眠れず、王子様が添い寝しておとぎ話を読み聞かせてくれる妄想をして過ごす羽目になってしまったのだった。

 王子様──学ともう一度会った日は、私が学を助けることができた。番になって欲しかったけど、だめで、でも、友達にはなってくれた。

 友達になったということは、隣にいてかっこいい顔をずっと見ていても良い権利を得たということで、悪い気分はしなかった。

 毎日見る学の顔はいつも、かっこよかった。向かうところ敵なしだと思う学の顔だけど、その顔で悩んでいると知って、私は意外に思った。悩んでいる理由が私と同じ、誰からも距離を置かれることだったから。あまり、学の顔を見てはいけないかも、と思った。でも、かっこいい顔はなかなか見ないようにすることができない。

 学の首筋が無防備で、その髪が柔らかそうだと思って、思わず近寄ってしまった日があった。シャンプーかな? といい匂いだと思いながら、首筋に鼻が擦れる。その下にはうなじをガードする首輪がしてある。私がそれに気が付くのと同時に、学は勢いよく立ち上がってしまう。

「そこはだめ!」

 それから、並んで座り込んで、アルファだとかオメガだとかの話をする。

 こんなに私のことを心配してくれるなんていい人だな。

 番になるなら、学が良いと思っていた。そして、その時は私が学のうなじを噛むのである。

 ──……学は身長が高いから、うなじを噛めないかもしれない。

 そう思って、私はどうしたら学を噛んで番になれるのか頭をフル回転させていた。
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