姫と騎士のめぐりあい
——そして数日後。

刑の執行を待つ夜、
独房の扉が静かに開いた。
月明かりの中、
入ってきたのはジゼル王妃だった。

ヴァルタザールは驚いたように顔を上げる。
「……ジゼル王妃。俺に最後の説教でも?」

「いいえ。」
ジゼルは首を振った。
「——謝りに来たの。」

「……謝る?」

「あなたの母、シャルロットを助けられなかったことを。私は、彼女が革命で亡くなったと聞かされて……でも真実を知ろうとあの時もっと行動していたら、助けられたかもしれない。」

ヴァルタザールは無言のまま視線を逸らした。
ジゼルはその沈黙を受け入れるように、
静かに語り続けた。

「あなたの母はね、幼いころ、よく歌を歌っていました。庭の花を摘んで、冠を作るのが好きで……いつも明るい子でした。両親に愛されて、幸せな子どもだったのですよ。」

その言葉に、ヴァルタザールの眉がわずかに動く。
「……そんな話、誰もしてくれなかった。」

「あの子の母、つまり私の継母は私を疎んじて、父も私を愛してはくれませんでした。そんなはみ出し者だった私にも、あの子は優しく接してくれて。かつて、あの子はユーフォルビアの宮廷で誰からも大切にされていました。悲しいことに、時代がそれを奪ってしまったけれど。」

沈黙が落ちる。
ジゼルの声は穏やかで、
まるで祈りのようだった。
「あなたの母の人生は、不幸なだけではなかったと思うわ。——愛され、愛した時間も、確かにあったのです。」

ヴァルタザールの目から、
一筋の涙がこぼれた。
「……そうか。なら、母は……少しは救われていたのかもしれないな。」

ジゼルは静かに頷く。
「そして、あなたもまた。母の呪いではなく、母の愛を継ぐ者として生きてほしかった。」

ヴァルタザールは微笑む。
それは初めて見せた、
少年のような、穏やかな笑顔だった。
「ありがとう……王妃殿下。あの人の話を、初めて“母”として聞けた気がします。」

ヴァルタザールと束の間の時間を過ごした後、
ジゼルは彼の独房を後にした。

その翌朝、
ヴァルタザールは静かに刑場へと連れて行かれ、
その最期の瞬間まで
穏やかな表情を崩さなかったという。
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