寒椿
 荷物を取り、車に乗り込んだ二人。
無言で車を急発進させた父。
 彩は、後ろを向き遠のく洋館を
見つめていたが、突然雪が舞い出し
吹雪に変わると、洋館は雪の中に姿を消した。
 「お父さん……これって」
 「俺たちは神隠しの館に
迷い込んだんだ。昔、婆ちゃんが
よく話してただろ?
 彩、カメラの画像を見てみろ」
 父に言われるまま彩は
カメラの画像を見て絶句した。

 カメラの画像には、薄っすらと
煙のようなものが映っているだけで
何も映っていなかったのだ。

 「あの、青年……彩をあっちの世界に
連れて行こうとしたんだ」父が呟いた。

 「史郎さんが……」
 それから、彩は寒椿に囲まれ透き通るような
白肌に真っ赤な唇と魅力的な瞳で微笑む
史郎の姿が頭の中から消えるまで時間を要した。

 冬の朝、
突然の猛吹雪の中に現れた洋館。
 そこで起こった不可解な出来事。
 人は皆それを『神隠しの館』と言って
語り継いでいるという。

 それから数年後、
吐く息も白い冬の朝、
旅行でこの土地を訪れた男女が
突然の猛吹雪に見舞われた。
 遥か彼方に見える一軒の洋館、
男女が洋館のドアを開けると
白髪のオーナーが優しく出迎え、
階段上からは書生風の男性が優しい笑顔で
彼等に微笑みかけていた。


~ 寒椿 完 ~
 
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