君と解きたい数式がある
君がcosなら、私はsinでいたい
放課後、図書室の隅。
いつものように咲良は一ノ瀬の隣で、数学の問題集を広げていた。
「この角度、なんか苦手なんだよね……sinとかcosとか。意味わかんないし」
「sinθは“縦の長さ”、cosθは“横の長さ”。単位円で考えた方が覚えやすい」
「え、単位円ってあの丸いやつ?」
「そう。例えば、θ=0°のとき、cosθ=1で、sinθ=0。
でも、90°になるとcosは0、sinは1。つまり——」
「正反対ってこと?」
「うん。けど、どちらかが0になるからって、どちらかが無意味になるわけじゃない。
お互い、角度によって支え合ってる。…ちょっと人間関係っぽい」
「人間関係?どういうこと?」
瑛人は少しだけ目を伏せて、小さく息を吐いた。
「俺はどちらかと言えば“cos”タイプ。
無理に感情は出さないし、いつも落ち着いてる方が楽だから。
でも……たまに、君みたいな“sin”みたいな存在が、眩しく見える」
「……私が、sin?」
「感情を隠さない。笑って、泣いて、いつも真っ直ぐ。
俺とは正反対だけど、だからこそ……惹かれるのかも」
一瞬、世界が止まった気がした。
咲良の心臓が、cosどころじゃない角度で跳ねる。
「そ、それって……もしかして、惹かれてるって……え!?待って!!」
「ごめん。数式でしか言えないけど、
君がcosになっても、俺はsinでいる。
同じ角度を向いていれば、ちゃんと交わるから」
咲良の顔が、90°どころか360°真っ赤になった。
「え、ちょ、なにその告白、数式っぽいのにめちゃくちゃキュンとするんだけど……!!」
「……じゃあ、次はtanで説明してみる?」
「やめて、心臓もたない!!」
図書室の静かな空間で、
“cosとsin”は、ほんの少しだけ距離を縮めた。