あなたの家族になりたい
 次の日、市場から戻って朝飯食おうとしたら、台所から澪が出てきて、親父と俺に朝飯を出した。

 そのあと自分の分も持ってくる。

 いつもなら先にお袋と食ってるんだけどな。


「あの、私もご一緒していいですか?」

「いいよ」


 親父が頷く。澪は不安そうに俺を見上げる。


「好きにしろ」

「瑞希、言い方」

「えー……、いいよ……」

「……ありがとうございます」


 三人で手を合わせて食べ始める。

 親父と今日の作業内容や予定を確認している間、澪は何も言わずに箸を進めている。

 先に食べ終えた澪が立ち上がり、皿を片付ける。

 俺と親父も終えて皿を下げ、洗うのは任せる。


「瑞希ー、冷蔵庫のヨーグルト食っていい?」

「ダメ」

「澪ちゃん、ヨーグルトあるよ」

「ダメだっつってんだろ……」


 親父は冷蔵庫のヨーグルトを勝手に出して食べている。

 澪はヨーグルトのカップを持って、困った顔で俺と親父を見比べる。


「……食った分、買っとけよ」

「わかりました……、ありがとうございます」


 畑に出て汗かいてると、親父も出てきてバイトやらに指示出してた。

 俺は自分のことをしつつ花音が残した温室の手入れもしておく。

 この温室、いつまで維持すりゃいいんだ?

 花音は須藤さんのところの空いてる畑を花音がもらって、いくつかは持っていったけど、温室じゃないとダメなのは俺が引き継いでいる。

 澪ってそういうの出来んだっけ?

 でも、お袋の手伝いと引き継ぎで手一杯だろうな……。

 そこで、俺が澪のこと何にも知らねえって気づいた。

 うちに来るまで何をしてたかとか、何ができて、できないのか。好き嫌い、何も知らない。

 ……でも、それは向こうだって同じだろ。

 昼飯を食いに家に戻ったときに、ここに来る前のことを聞いたら、またお袋に怒られた。


「お見合いのときに、言ってたでしょうが!」

「そうだったか?」


 お袋はデカいため息をつく。


「美園さんの造園屋さんの事務をしてたのよ」

「へー」

「聞いといてあんたは……!」

「いや、だからお袋の手伝いしてるんだなと思って」

「ごめんなさいね、澪ちゃん。この子、本当にぼんくらで……」

「い、いえ……」


 隣で箸を進めていた澪が首を横に振っている。


「つーか、こいつだって俺のこと何も知らねえだろ」

「すみません……」


 肩を狭くする澪に、お袋が俺を睨む。


「瑞希、あんたね……」

「うるせえな」

「反抗期か!」


 これ以上怒られるのも鬱陶しいので、さっさと食い終わらせて席を立つ。

 澪が追いかけてきたので皿を受け取るけど、突っ立ったまま動かない。


「なに」

「……いえ、すみません」


 怯えた顔で澪はダイニングに戻っていく。

 お袋に怒られる前に、さっさと片付けて畑に向かった。


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