メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
「言うことを聞く必要はない。理不尽な要求を飲めば、次の理不尽が来るだけだ」
 陽音は涙に濡れた目で乃蒼を見た。
 確かにその通りだ。料理がまずいと言われて謝って、改善の努力をした。だが、誹謗がひどくなるばかりで留まることを知らなかった。

「私、いつまで苦しめばいいんだろう……もう嫌だ」
「陽音……」
「ケリをつけたい。だけど、どうしたらいいかわからない」
 ぐす、と鼻を鳴らすとぎゅっと彼に抱きしめられた。

「君は優しいから反撃なんてできないんだ。だけど、それでいい。無理をする必要はないんだ」
「でもそれだとずっと同じことの繰り返しかもしれない」
「俺が手を貸す。ひとりじゃないんだ。一緒に考えよう」
 頭を撫でる彼の手が温かくて、陽音はただしがみついて涙をこぼした。



 翌日の昼休憩。
 陽音はお店のテーブルに乃蒼と向かいあって座っていた。テーブルには陽音のスマホがある。
 陽音はスピーカーにしてグルメーズに電話をかけた。昨日と同じ手順を踏み、電話は淳太につながる。

「はい、須藤です」
「陽音です」
「別れる決心がついたか」
 にやにや笑いが見えそうな声に、陽音は顔をしかめる。

「別れるわけがありません」
 乃蒼が口をはさむと、怒りの気配が伝わって来た。
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