野いちご源氏物語 三五 柏木(かしわぎ)
年が明けても衛門の督様は寝込んでいらっしゃる。
ご両親が嘆かれるのを見ても、
<親より先に死ぬという親不孝は申し訳ないが、だからといって惜しい命でもない>
と人生を諦めてしまわれている。
<どんなことでも人より立派でありたいと幼いころから思っていた。私ならできると思いあがっていたが、どうあがいても手に入れられないものはあるのだと思い知らされた。女三の宮様のご結婚相手が源氏の君に決まったとき、幼い自信をすっかり失ったのだ。
それからというもの世の中が何もかもつまらなくなった。もう来世の幸せを祈ろうと出家を考えたが、両親の悲しみを想像するととても修行に集中できそうにない。なんだかんだで出家できずにいるうちに、とうとう世間に顔向けできないほどの大事件を起こしてしまった。女三の宮様と関係を持ってしまった上、子まで成してしまったのだ。すべては自業自得で、他の誰のせいでもない。神様や仏様をお恨みできる話でもない。
誰だっていつかは死ぬのだから、こうして少しでも世間から惜しまれているうちに死んでしまいたい。私が死んだとお聞きになれば、姫宮様もさすがにご同情くださるだろう。命を懸けた恋の成果だ。
生きながらえてしまったら、いつかきっと世間の噂になって、私も姫宮様も笑い者になる。それよりはさっさと死んで、私をお憎みになっている源氏の君からもお許しいただこう。死んでしまえばどんな罪だって消えてなくなるのだ。これ以外のことで源氏の君に背いたことはないのだから、長年かわいがってくださったことを思い出して、少しは惜しんでくださるかもしれない>
ご病床でぼんやりと考えつづけていらっしゃる。
ご両親が嘆かれるのを見ても、
<親より先に死ぬという親不孝は申し訳ないが、だからといって惜しい命でもない>
と人生を諦めてしまわれている。
<どんなことでも人より立派でありたいと幼いころから思っていた。私ならできると思いあがっていたが、どうあがいても手に入れられないものはあるのだと思い知らされた。女三の宮様のご結婚相手が源氏の君に決まったとき、幼い自信をすっかり失ったのだ。
それからというもの世の中が何もかもつまらなくなった。もう来世の幸せを祈ろうと出家を考えたが、両親の悲しみを想像するととても修行に集中できそうにない。なんだかんだで出家できずにいるうちに、とうとう世間に顔向けできないほどの大事件を起こしてしまった。女三の宮様と関係を持ってしまった上、子まで成してしまったのだ。すべては自業自得で、他の誰のせいでもない。神様や仏様をお恨みできる話でもない。
誰だっていつかは死ぬのだから、こうして少しでも世間から惜しまれているうちに死んでしまいたい。私が死んだとお聞きになれば、姫宮様もさすがにご同情くださるだろう。命を懸けた恋の成果だ。
生きながらえてしまったら、いつかきっと世間の噂になって、私も姫宮様も笑い者になる。それよりはさっさと死んで、私をお憎みになっている源氏の君からもお許しいただこう。死んでしまえばどんな罪だって消えてなくなるのだ。これ以外のことで源氏の君に背いたことはないのだから、長年かわいがってくださったことを思い出して、少しは惜しんでくださるかもしれない>
ご病床でぼんやりと考えつづけていらっしゃる。