亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ぷつりと、何かが切れた気がした。その不可解な感覚に、ルーチェの身体はぐらりと傾く。

 瞬時に気づいたヴィルジールがルーチェの腕を掴み、反対の手で抱き寄せてくれたが、それでもルーチェは立っていることができずに崩れ落ちた。

「どうした。気分が悪いのか」

 ルーチェは震える唇を開いた。

「……分かりません。何かが切れたような……消えた、ような」

 頭の奥で、糸のようなものが切れた感覚がした。長時間何かをしていて、集中力が切れてしまった時と似ている。

 ルーチェと何かを繋いでいたものが、ぷっつりと切れた。いや、消えたという表現の方が相応しいだろうか。

 脚に力を入れても、ゆっくりと呼吸をしても、心臓が悲鳴を上げるかのように脈打っている。その音は次第に遠ざかっていき、ついにはヴィルジールの顔まで朧げになっていった。

 頭の中をかき混ぜられ、覗かれていような。深い水底に吸い込まれ、そして引き摺り込まれるような感覚がルーチェを襲う。

「ルーチェ!」

 ヴィルジールがらしくない顔をしている。

「────」

 声が、音にならない。その名を呼んで、大丈夫だと伝えたいのに、彼の鼓膜を揺らすことはできなさそうだ。

「ルーチェ!一体どう──」

 何かに引き摺り込まれるように、ルーチェは意識を手放した。
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