亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「──おや、思ったより早かったですね」

 扉の向こうでは、へらりと笑うエヴァンが立っていた。痺れを切らして呼びに来たのかと思ったが、そうではなさそうだ。

 三日も全てを押し付けていたというのに、文句を一つも言ってこない。ということは、宰相としてでなく、友人としてここに来たのだろう。

「へーいか。変な顔をしてますが、大丈夫ですか?」

「……ああ」

「ルーチェ様が心配だったのは分かりますが、貴方が年頃の女性と二人きりで部屋に籠るなんて、世にも珍しいことがあるものですねぇ」

「…………」

 エヴァンが揶揄うように笑いながら、ヴィルジールの背を叩く。いつもなら即刻やり返しているところだが、今のエヴァンの言葉で一つ気づいたことがあった。

「……そうか。心配だったのか」

「はい?」

 ヴィルジールはエヴァンを無視して歩き出した。

「ちょ、陛下!」

「静かにしろ。頭に響く」

「静かにしたいのは山々ですが、積もる話があるんですよ!」

 この三日間であった出来事を語りたいのか、或いは愚痴が溜まっているのか、エヴァンが手帳を開きながら喋り出す。

 速やかに黙らせる方法を思いついたヴィルジールは、ぴたりと足を止めた。
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