亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ヴィルジールを挟んで向かいにいるアスランが、少女の肩を強く押した。

「ジルに触るな!お前がこの国に来たから、あの化け物が現れたんじゃないのか!?」

「そうだぞ!イージスを滅ぼした聖女め」

 少女がヴィルジールの手を取ってから、彼を囲んでいた治癒師や騎士たちが非難の声を上げ始めた。初めは触るな、離れろ、何をするつもりだなどといった軽いものだったが、それらは次第に言葉の暴力へと変わっていく。

 石を投げつけられる感触がしたが、少女は顔を上げた。

(聖女が何なのかは、よくわからない。でも……)

 少女は夜空を仰いでから、目を閉ざしているヴィルジールを見た。その瞼の裏に隠された瞳は、とても冷たくて、強くて、全てを凍てつかせてしまいそうで。

 けれど、民を救いに向かった時に見開かれていたそれは、守りたいものを守らんとするひとりの守護者のものだった。

 その眼差しを、少女は知っている。ヴィルジールのものではないけれども、同じものを少女も見ていた。側にいた。ずっと傍にいると約束していた。

 だけれど、それは……守れなかった。

(わたしはとても大切なものを、護れなかった。それだけは憶えているのです)

 少女はヴィルジールに語りかけるように、指先に力を込めた。
< 37 / 283 >

この作品をシェア

pagetop