亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ヴィルジールとの晩餐会が開かれたのは、それから二日後のことだった。

「とてもお綺麗です。聖女様」

 菫色のドレスとパンプスに、控えめながらも美しいアクセサリーを身に纏った少女は、お姫様のような見た目になっていた。

 その場でゆっくりと回ってみせてから、大きな姿見の前に立つ。白銀色になった自分の髪は未だに見慣れず、鏡の前に立つたび他人を見ているような気分になったが、今日はなんだか心が軽い。きっと、セルカが綺麗にしてくれたからだろう。

 迎えにきた騎士の先頭にはアスランがいた。顔を合わせた時は不服そうな顔をしていたが、仕事だからと割り切ったのか、少女にエスコートの手を差し伸べる。

「ありがとうございます。アスラ……デュ、デューク卿?」

 アスランの眉が顰められる。名前を呼ぶなと言われたから、誰かが呼んでいた名を出してみたのだが、どちらにしろ呼ばれたくなかったのか、話したくもないのだろう。

「……アスランで構わない」

 並んで歩くアスランの顔を見上げると、やっぱり不機嫌そうだ。

「で、でも……呼ぶなと」

「あ、あの時は……お前がジルを傷つけるんじゃないかと思ったからだ!」

 アスランは慌てたようにそう言うと、フンとそっぽを向く。

 渡り廊下を抜け、ふたり分の横幅の青色の絨毯が敷かれている廊下を歩くと、大きな扉の前に着いた。
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