甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
三日後、私は父にだけ相談した。
病床に伏す父は、弱々しい笑みを浮かべながら、私の手を握った。
「紫月、お前が幸せなら、それでいい」
そう、呟いたその声はどこか諦めと安堵が入り混じっていた。
父の背中を押されるように、私は嘉山周寧の妻になることを決めた。
──結婚式はなかった。
華やかなドレスも、祝福の拍手も、花束もなかった。ただ、役所で書類に判を押すだけの、文字通り「契約結婚」。
ペンを握る手が震え、インクが滲みそうになるのを必死で抑えた。
嘉山紫月──慣れない新しい名前が、書類の上で冷たく輝いていた。まるで他人事のように、どこか遠い世界の話のように感じられた。