この恋、予定外すぎて困ってます



怖い。
誰か、助けて――



「おい、誰の手掴んでんだよ、お前」



ドスの聞いた声。

振り返ると、そこには――

晴人先輩。

シャツ姿で、髪が濡れていて、 息を切らして立っていた。

…え。 もしかして、お風呂上がり? 走ってきたの?

先輩は、おじさんの胸倉を掴んで、 今にも殴りかかりそうな勢いだった。



「先輩!先輩やめて、お願い!」



私は、必死に止めた。

おじさんは「許さねーからな!」と捨て台詞を残して、 走っていった。
静かになった夜道。



「…あー、ごめん。涼ちゃん、怖かったよね」



先輩の髪は、まだ濡れていた。
目も、少し赤い。

…ほんとに、走ってきてくれたんだ。 私のために。



「一人で帰れる?先行くね」



そう言って背を向けた先輩の腕に、 私は思わずしがみついた。



「ごめんなさい、先輩…ごめんなさい…」



涙が、止まらなかった。
こんなに優しい人に、 私はなんて酷いことを言ったんだろう。

「顔も見たくない」なんて、 本当はそんなこと思ってなかったのに。
先輩は、何も言わずに、 私の手を握ってくれた。


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