桜吹雪が舞う夜に

それから私は、気づけば授業の合間も救急救命サークルの仕事を詰め込み、夜は参考書を抱えてベッドに沈み込むようになった。

――でも。

「桜、最近顔色悪いぞ」
同級生にそう指摘されても、私は笑ってごまかした。
「大丈夫。……ちょっと寝不足なだけだから」

本当は分かってる。
要領が悪くて、キャパシティが小さいだけだ。
日向さんみたいに、徹夜明けでも堂々と前に立てる人間じゃない。

(それでも、頑張らなきゃ……!)

そう思えば思うほど、身体は重くなり、気持ちは空回っていく。
課題に追われ、サークルに追われ、気づけば楽しさなんて感じなくなっていた。

夜。
スマホの画面に浮かぶ日向さんからの未読LINEを見つめて、そっとため息を吐く。

(返事をしたら、きっと気づかれる。……今の私の情けない姿を)

だから、既読もつけられずにスマホを伏せた。

――隣に立ちたい。
そう願ったはずなのに。

気づけば、その背中はまた遠ざかっていく気がして、胸が痛んだ。





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