大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

第130話 親友は、だいたい全部お見通し

 駅前の小さなカフェは、平日の夜にしてはほどよく静かだった。

 私は美鈴の向かいに座り、湯気の立つカフェラテを見つめている。

「……で?」

 一口も飲まないうちに、美鈴が言った。

「今日は“ちょっとだけ”って言ってたけど、その顔は絶対ちょっとじゃないよね」

「顔?」

「うん。完全にこじらせてる人の顔」

「失礼な」

 そう返しながら、否定できない自分がいる。

「平田さん?」

 ストローで氷をくるくる回しながら、美鈴はあっさり核心を突く。

「……なんでわかるの」

「だって、朱里が自分から“ちょっとだけなら”って言うときは、だいたい相手が原因」

 ぐうの音も出ない。

 私はため息をついて、視線を落とした。

「……最近、距離が近いんだか遠いんだかわからなくて」

「うんうん」

「話してると安心するのに、あとから自己嫌悪するし」

「うんうん」

「で、気づいたら“なんでもない”って言葉ばっかり増えてる」

 美鈴は、静かに頷いてから言った。

「それ、“大嫌い”って言ってた頃より重症じゃない?」

「……」

 図星すぎて言葉を失う。

「ねえ朱里」

 美鈴は少しだけ声を落とした。

「平田さんの前で、“大嫌い”って言わなくなったの、いつから?」

「……最近」

「それってさ」

 美鈴は、にやっと笑う。

「好きすぎて、冗談にできなくなったってことじゃない?」

「ちが……」

 反論しかけて、止まる。

(違う、って言えない)

「しかも」

 美鈴は続ける。

「向こうも、朱里のこと気にしてる顔してるよ」

「……それは、ない」

「じゃあ聞くけど」

 美鈴は身を乗り出した。

「瑠奈ちゃんが近くにいるとき、平田さんのこと見るの、なんでそんなに嫌そうなの?」

「それは……」

 答えはわかってる。

 でも、口に出したら負けな気がして。

「朱里」

 美鈴は真剣な目で言った。

「このままだと、誰かに取られるよ?」

 心臓が、ぎゅっと縮む。

「“大嫌い”って100回言う前にさ」

 美鈴は、少し優しく笑った。

「一回くらい、“好き”って思ってる自分を認めなよ」

 私はカップを持ち上げ、ようやく一口飲んだ。

 甘くて、少し苦い。

(……ずるい)

 親友は、どうしてこんなに全部見抜くんだろう。

「……ねえ、美鈴」

「なに?」

「もしさ」

 私は、恐る恐る言った。

「向こうから一歩踏み込まれたら……どうすればいいと思う?」

 美鈴は即答した。

「逃げない」

「……」

「それだけでいい」

 その言葉が、胸に残る。

 カフェを出たあと、夜風に当たりながら、私はスマホを握りしめた。

 画面には、平田さんとのトーク。

 最後のメッセージは、あの一言。

──今日の帰り、また一緒に帰りたい。

 まだ返していない。

 でも。

(……逃げない)

 私は、指先に力を込めた。
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