大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

第91話 お昼休みの恋バナ相談

昼休み、オフィスの片隅にある給湯室。
 お弁当を抱えた朱里は、気配をうかがうように辺りを見渡した。

 「こっち空いてるよ」
 声をかけてきたのは、田中美鈴。
 朱里の同期で、鋭い観察眼と面倒見の良さで知られる頼れる友人だ。

 「なにその挙動不審。まるで“彼に弁当見られたくない女子”みたいな顔してるけど?」
 いきなり核心を突かれて、朱里は思わずむせそうになる。
 「ち、違うってば……! ただ、ちょっと……ね?」

 「ちょっと、なに?」
 美鈴は肘をつき、にやりと笑う。
 朱里は視線をそらし、味噌汁のフタをいじった。

 「……朝、平田さんと一緒にエレベーター乗っちゃって」
 「へぇー。で?」
 「別に、何も。ほんのちょっと会話しただけ」
 「なにその“何もないけど顔が赤い”状態。完全に恋じゃん」

 朱里は顔を覆いながら、小声で抗議した。
 「だ、だからそういうのじゃ……」
 「じゃ、何? “好きじゃないけど、気になる”? それが一番厄介なのよ、中谷朱里」

 図星を刺されて、朱里は沈黙。
 スプーンを持ったまま固まっている彼女を見て、美鈴はため息をついた。

 「で? あの“望月ちゃん”とはどうなの? 最近よく話してるっぽいけど」
 その名前を聞いた瞬間、朱里の肩がピクリと動いた。
 「……普通に仲良くしてるだけじゃない?」
 「ふーん。で、どっちが?」
 「どっちがって?」
 「瑠奈ちゃんが平田さんを狙ってるのか、それとも──朱里が気にしてるのか」

 朱里はお箸を持つ手を止めた。
 心の奥をそっと覗かれたようで、何も言い返せない。

 「……気にしてる、のかも」
 ようやく出た声は、蚊の鳴くような小ささだった。

 美鈴は柔らかく笑う。
 「やっと認めた。いいじゃん。恋ってそういうもんでしょ。気にして、嫉妬して、焦って……でも、笑っちゃうくらい不器用」

 「……笑わないでよ」
 朱里は小さく唇を尖らせた。
 「笑ってないって。むしろ応援してる。だって朱里、ほんとわかりやすいもん。“大嫌い”って言いながら、全部“好き”って意味だし」

 「そ、そんなこと──」
 否定しようとした瞬間、スマホが震えた。
 画面には「平田嵩」の名前。
 朱里の心臓が跳ねる。

 「な、なにこれ……!」
 「出なさいよ。仕事かもよ?」
 「そ、そうだよね……!」
 震える手で通話ボタンを押す。

 『中谷さん? 今日、少し話せる時間ある?』
 「えっ……あ、はい! あります!」
 思わず声が裏返った。
 隣の美鈴が、にやにやと頬杖をつきながら見ている。

 『じゃあ、夕方、会議のあと少しだけ時間もらえる?』
 「は、はい! もちろん!」

 通話が切れた瞬間、朱里は机に突っ伏した。
 「……もう無理。心臓が持たない」
 美鈴は苦笑しながら、背中を軽く叩いた。

 「よかったじゃん。チャンス到来よ?」
 「チャンスって、何の……?」
 「もちろん、“好き”を100回言う練習のチャンス」

 朱里は真っ赤になりながら顔を上げた。
 「む、無理だからっ!」
 「じゃあ、“大嫌い”を50回に減らすとこから始めな」
 美鈴の言葉に、朱里は思わず吹き出してしまった。

 ──笑いながらも、心の奥で思う。
 今日こそ、少しだけでも素直になれたらいい。
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