鬼課長は、ひみつの婚約者
「ちょっと、佐伯さん。莉子ちゃんのこと、褒めすぎじゃないですか?」
真由の顔は赤く上気し、彼女の瞳は私を射るように見つめていた。
「え、いや、そんなつもりは……」
佐伯さんが、戸惑った表情で答える。その言葉を遮るように、真由が続けた。
「そんなにチヤホヤしたら、莉子ちゃん調子に乗っちゃいますよ?」
真由の声は、先ほどよりもほんの少し大きくなっていた。
「ねえ、真由……どうしたの?」
私が戸惑いながら聞くと、真由は意地悪く笑った。
「……ふん。頑張っていたって、大したことないじゃないの。よく言うわ」
真由の言葉に、胸騒ぎがした。ただならぬ気配に、私はゆっくりと息を止める。
「だって、莉子ちゃんが仕事でどれだけミスしても、望月課長が守ってくれるんでしょう? あなたたち二人は、付き合っているんだから」
「……っ!」
その瞬間、私の心臓が凍りついた。周囲の賑やかな声が、まるで潮が引くように遠ざかっていく。