鬼課長は、ひみつの婚約者
「……ここ、高校だ」
見慣れた校門をくぐると、懐かしい香りがした。それは、六年間変わらない、古びた校舎の匂いだった。
「ああ。俺と莉子が、初めて出会った場所だ」
六年ぶりに足を踏み入れた高校の図書室は、あの頃と何も変わっていなかった。
夕日が差し込む窓辺には、埃がかぶった専門書がずらりと並び、静かで優しい空気に満ちている。
瑛斗は、私が当時よく座っていた窓際の席へと私を誘った。
「莉子」
瑛斗が、真剣な眼差しで私を見つめる。
「君へのプロポーズ、もう一度やり直させてくれないか?」
彼の言葉に、私は驚いて目を見開いた。
「今度は、俺の本当の気持ちを全部伝えた上で、結婚してほしい」
そう言って、瑛斗は後ろに隠し持っていた花束を私に手渡した。それは、私の好きな白いユリとカスミソウの花束だった。
花束の甘い香りが、図書室の古びた匂いと混ざり合う。
瑛斗の真っ直ぐな眼差しに、私は彼と初めて会ったときのことを思い出した。
まるで、時間が逆戻りしたみたいだ。
あの頃、手が届かないと思っていた彼の視線が今、私をまっすぐに見つめている。
私は、瑛斗と出会ってから、ずっと彼の背中を追いかけていたんだ……。