らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って

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「千颯、コンテストの絵描けた?」

「まだ」

「今週提出だよ、描けそ?」

「そうゆう咲茉(えま)は描けたのかよ」

「あとちょっと」

美術部の活動は週3回、あとは基本自由でコンテストに出す絵さえ完成させられたら来ても来なくてもいい。

でも暇だから毎日来ちゃう、こうしてキャンバスに向かってる時間は何より好きな時間だから。

美術室で千颯と向き合って絵を描く、目の前のキャンバスで顔は見えないけど筆のこすれる音を聞きながら千颯を感じて。
今日は自由参加の日だから私たちしかいないしね。

「そいうえば進路希望の提出もうすぐだよね」

「明後日だな」

「そんなに早く決められなくない?まだ全然先のことなのに」

「来年受験だぞ、全然先じゃねぇよ」

もう来年…か、来年の私はどうしてるんだろ?
来年もたぶん絵を描いてる、かな?


そんな未来しか見えない、そんな未来がいい。

このままずっと、ここでこうしていられたら。


筆に絵の具をつけて塗っていく。
色を重ねたり、水で薄めたり、丁寧にゆっくりと。


一瞬息が止まりそうになる、この瞬間が私は好き。

何もかも忘れて無になる瞬間、夢中になれる瞬間が…


「千颯は決まってるの?」

「ん?」

「進路!」

「あー…決まってない」

自分がどうなりたいか、なんてみんなそんなもの…

どうやって決めるんだろう?
決めていいのかな?

自分のことなんだから自分で決めるのがあたりまえなんだけど…

不安になるばっかりだ。

だけど、もしかして叶うなら…

「私は絵の大学か専門学校に行きたいんだよね」

「咲茉は決まってるのかよ」

「夢だよ、夢!もっと絵描きたいし、絵を仕事にしたなぁ~って」

画材の香りが立ち込めるこの教室で、こんなことを言うのは簡単で。

「でも、ちょっと勇気ないじゃん」

これだけでいいのかなって、好きなだけでいいのかなって。進路を聞かれるたびに迷ってしまう、みんなこれで一生が決まるみたいな言い方をするから。

「ねぇ千颯も一緒に行かない!?」

ふと思いつきで、何気なく言ってみた。不安だった気持ちを晴らすみたいに。
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