俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
「じゃあ、そうですねー。そこの位置がいいですー」

顔の血を汗とともに拭った俺は、普段の撮影のように、殿に声を掛けながら普通に立っている殿をデジイチへと収めていく。最初の写真が、殿の写真であることがこのカメラにとって幸か不幸かはちょっと判断できなかった。

ぐさ

う……

背中に何か強い衝撃を感じて、俺は膝を折る。
カメラはもちろん、必死で手に抱えて。

「ちょっと、巫女。
何してるのよ?バナナに当たってんじゃない」

「大丈夫よ、この破魔矢、人間に当たっても除霊とかしないし。
それに、バナナくんはどっちみちそんなに長く生きられないんだから、問題ないって」

涼やかな声が、怖ろしい内容を告げていたことは、……気にしないことにしておこう。
そもそも、今、俺はそれどころじゃない。
背中からのひりつくような痛みで、脂汗が滲む。
この、鉄のような匂いはやはり、屋上の錆びた手すりの匂いなんかじゃなくて、俺の背中の血の匂い……なんだろうな。

「じゃあ、痛くないの?」

「そりゃ痛いわよ。矢が刺さるのよ?いくら皮下脂肪が厚くても知覚神経は正常に働くんでしょう?」

のんきに、人の心まで突き刺すような会話を交わしている暇があったら、その破魔矢とやらを抜いてもらえませんかね?
お姉さま方。


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