僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「達筆、俺の伝説聞いてるのか?
その時俺は、言ってやった。『俺に出来ないことはない』と。かっこいいだろ、俺って。
その時の俺を達筆にもみせてやりたかったなあ」

 ……話の流れからすると、『達筆』って僕のことなんだろうな。
 もちろん、僕の名前は『達筆』なんかじゃない。

 まあ、いいんだ、僕は。生徒だし、本名だって、役所のせいで病院で名前を呼ばれるたびに周りの患者から失笑を買うような代物だ。

 しかし、目の前でペラペラと、僕からしたらどうでもいい伝説を喋りまくるこの人はいいのか?
 教員用のネームプレートに堂々と『殿』。しかも太字ではっきりと。

「なんだ、達筆。俺に見とれてるのか?まいったなあ。俺はそっちの趣味はないんだよ。
それに、俺には心に決めた人が――」

 そう言って、アメリカ人もびっくりのオーバーリアクションで肩をすくめる。
 眉を潜めて首をふる仕種が妙に色っぽい。この人、見た目だけは、完璧なのだ。

 よく見ると、上を向けた両手の人差し指と親指が円をつくるようにくっついている。お金か? 何かの暗示なのか?

 それとも殿は真性のアホなのか?

 ちなみに僕だって、男に興味はない。女の子と付き合ったことも、まともに喋ったこともないけれど。

「ああぁぁぁっ!!」

 突然、殿から発せられた奇声に情けなくも、「ひっ」と声を漏らしてしまった。



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