あやかし×コーデ
1、私とファッション
「瑞野さんの私服って、超攻めてんの。見たことある?」
私の方へ、わざと聞こえるように言っている。
私は教室の自分の席のイスにもたれて、そちらをちらっとにらんだ。
日向寺さんがこっちを見て、くすっと笑う。
はいはい、お友達と私のウワサ話ですか。どーぞどーぞ。私は別に、痛くもかゆくもありません。
私、瑞野咲は、中学二年の普通の女子。
ただ、普通とはいえ、あんまり友達と一日中べたべたする方じゃない。一人でいるのが好きな、いわゆる一匹狼みたいなやつ?
おしゃべりをする子はいるけど、友達、と呼べるほどの子はいないかもしれない。
私はそういうの、おかしいとは思わないんだけど、日向寺さん達はそうじゃないみたい。
瑞野さんって普通じゃないよねー、浮いてるよねーって思ってるんでしょうね。日向寺グループ(日向寺乃愛を中心とした女子グループのことだ)から見たらそうなんでしょう。
「どんな服なの?」
と聞いたのは、日向寺グループ、ナンバーツーの木下真里奈。
「とにかく全身黒。なんかねー、魔女みたいな感じ? 黒いシャツに黒いロングスカート」
「ゴシック好きなの?」
「じゃなくてー。もっと変わってんの。何回か見たことあるんだけど、攻めすぎてて目立つからびっくりよ」
余計なお世話、なんですけど!
私はね、着たい服を着てるだけ。あんた達にごちゃごちゃ言われる筋合いはない。
モード系っていうファッションなの。私がよく着てるのは。
日向寺さんと言えば、流行の最先端をいっているようなイマドキ女子だ。
先生に怒られるのを承知で、ちょっとリップを塗ったり、軽くメイクをしたり。
前髪もばっちりキメて――ナチュラル風エアリー前髪だ――その鉄壁ヘアースタイルが崩れることはない。
男子ウケ最強のパーフェクトスタイルを毎日つらぬいているのは私もすごいと思う。拍手送りたいくらいだね。
でも、それが一番イケてるっていうのは間違ってると思うのよ。
全員が流行りのものを身につけなくてもいい。みんな、好きな格好をするべきなんだ。
てなわけで、私は好きなスタイルをつらぬいてるし、日向寺グループに何か言われても全然気にならない。
また、日向寺さんと私の視線がぶつかった。
――何よ、あんた。
日向寺さんの目はそう言いたげだ。
――瑞野さん、何か言いたいことあったら、言ってみたら?
ぜーんぜん、ありません!
私は軽く肩をすくめると、前を向いて机に頬杖をついた。
はーあ、お腹空いちゃった。早く給食の時間にならないかな。
* * *
「ただーいまー」
私は家に帰ると自分の部屋に直行して、さっさと制服から着替える。
黒いワンピースに黒いチュールの生地を自分でつけてアレンジしたものだ。帽子も黒で、スニーカーも真っ黒。
今日のファッションはこれでキマり。
「じゃあお母さん行ってくるね」
「気をつけてね。百合子さんによろしく」
というわけで、私は今日も「職場」へと向かう。
トートバッグを肩にかけ、いつもの道を歩いていく。
……あ、授業で出された宿題のプリント、忘れちゃった。まあいっか。
リメイク途中のニットは忘れずバッグに入れてきたっていうのにね。だから私ってば、いつも成績ぱっとしないんだ。好きなことなら集中できるんだけど……。
そうしてたどり着いたのは、一軒の古着屋さん。
和風な造りで、ぱっと見では何のお店かわからない。小さな小さな木製の看板が、地面に近いところに立ててあるけど、気づく人っているかな?
『花恋―カレン―』それがこの店の名前。
私はガラガラと引き戸を開けて、足を踏み入れた。
「百合子おばあちゃん、来たよー」
「はい、いらっしゃい」
こじんまりとした店内には、あちこちに古着がかけられていて、初めて来た人ならきゅうくつに感じるかもしれない。でも、私はこのきゅうくつさが心地よかった。
店のカウンターには一人のおばあさんが座っている。真っ白な長い髪を後ろで結んだ、笑顔の優しい、上品なおばあさん。
この人が百合子おばあちゃん。私のひいおばあちゃんだ。
「あら、咲。今日もいかした服を着てるのね」
「へへっ……ありがと!」
「帽子のゴールドのバッジが、いいアクセントになってるわ」
「嬉しいなぁ」
百合子おばあちゃんは、いつも私の服装を褒めてくれる。どんな服でも、私が選んだものなら褒めてくれるんだ。
そんな服、着るんじゃない、なんて一度も言われたことはないし、私の気持ちを尊重してくれるから、大好きだ。
「靴は、スタッズがついたものの方がいいんじゃないかしらねぇ」
「やっぱり? 私もそう思うんだけど、持ってなくて」
「あと、もう少し底が厚いといいわね」
そして褒めるだけじゃなくて、アドバイスもしてくれる。
何を隠そう、うちの百合子おばあちゃんは、世界的に有名なファッションデザイナーなのである。
今はデザイナー業を引退しているけど、かつてはパリコレでも活躍したすごい人だ。
斬新で優美。そのデザインは常に人々を驚かし、魅了してきた。
そんなデザイナー、ユリコ・アサヒは、現在ひっそりと町の片隅で古着屋を営んでいて、私は手伝いをさせてもらってるんだ。
私もファッションが好き。いつかうちのお姉ちゃんみたいに、ファッション関係の専門学校に通って、その道の仕事がしたい。
今はまだ中学生だから、百合子おばあちゃんのもとで修行させてもらってる身だ。
「ふう……、じゃあ、咲が来てくれたことだし、今日は休ませてもらおうかしら」
百合子おばあちゃんは、八十代とは思えないほどしゃっきりしているんだけど、一つだけ弱点がある。
昼寝をしないとならないことだ。
百合子おばあちゃんの昼寝は一時間くらいで済むけど、一度寝たら自分で起きるまで、絶対に目が覚めない。
なので、その間は私が一人で店番をすることになっていた。
「悪いわねぇ、咲」
「いいよいいよ、いつものことじゃん! 一時間くらい私一人で平気だからね」
はっきり言って、お客さんなんて滅多にこないんだ。毎日店番してたって、私が担当している間に来客があるなんてことは十日に一度、あるかないかだもん。
実際、座ってるだけだ。
「ゆっくり休んでね」
「ありがとうねぇ。何かあったら声をかけてちょうだい」
うん……、起きないけどね、おばあちゃん。
百合子おばあちゃんはそのまま奥の部屋にひっこんで、私はカウンターの内側にあるイスに腰を下ろす。
店番中は、おばあちゃんが現役時代に描いたデザイン画を見せてもらったり、昔のコレクションの映像をポータブルプレイヤーで再生して見たりしている。
今日は持ってきたニットのリメイクの続きをしようかな。シンプルなニットの首もとに、ビジューをつける予定なんだ。
「どうせお客さんなんて来ないしねー」
万が一来たところで、「いらっしゃいませー」って言えばいいだけだ。
お会計だって、レジの打ち方を教えてもらったからどうにかできる(まだお客さん相手にやったことないから、ちょっと不安だけど!)。
ニットを台の上に広げる。キラキラしたビジューをどこに付けるか決めてから、接着剤でつけて、糸を通すんだ。
よーし、絶対、可愛くするぞ!
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