蝶々のいるカフェ
第9話 蝶々の結んだ縁
ゆっくりと新聞を読む。時折、陽の光が窓から差し込む。光の揺らぎが記事を読むのを邪魔したりするが、それもまた楽しんでいた。
すでに注文したエスプレッソは、テーブルの上で香りを振りまいている。
視線の隅で何かがキョロキョロと動いてる。私は視線をそちらにずらした。
スーツを着た客があちこちの席を見ながら、通路を歩いてきた。見た感じ、まだ若い男性という感じがした。
私の席を通り過ぎたとき、彼のポケットから何かが落ちた。白い布のハンカチのようであった。私はそれを拾い、声をかけた。
「ハンカチを落としましたよ」
「すみません。ありがとうございます」
私はハンカチを渡し、少し聞いてみた。
「落ち着かない様子ですが、どなたか人を探しているのですか?」
「はい。10年前の約束で、今日会うことになっているのですよ。このカフェも10年ぶりです」
「そうですか。会えると良いですね」
男性は少し離れた席に座った。
窓の外を見ると、学校の帰りだと思われる学生が多数歩いていた。
カップの中のコーヒー、つまりエスプレッソも少なくなっていた。陽の光が少し傾き始め、夕方に近づいてくるが、この中途半端な傾きが目に直行する。ただ、テーブルの影は長く目立つようになっていた。当たり前の事なのだが。
カラン……
カラン……
ドアベルの音が何度もする。
少しずつ席が埋まり、バイトのウェイトレスも忙しくなってきた。
「いらっしゃいませ!」
恋ヶ窪さんも頑張っている。
しかし、こんなに混んでいると、あの男性の相手もなかなか見つからないだろう。
私は彼の席までちょっと移動してみた。余計なお世話かもしれないが。
「まだ、来てない。あるいは見つかっていないみたいですが、何かその人の特徴とかありますか?」
「10年経つとだいぶ変わりますよね、ちょっとわからないです」
彼は若く見える。10年前だとまだまだ子供に近い年齢だったのだろう。その時は高校生ぐらいだろうか。それから10年だと、姿を見てもわからない可能性もあるな。
そして、何か気になるところでもあったのか、彼は視線を隅のほうへやった。
「あのモニターはなんですか?」
「注文するときに、アプリの蝶々の説明をされたでしょう。その蝶々が常時映し出されているんですよ」
「そうなんですか」
そういえば、蝶々は今、どこにいるのか気になって、私はモニターをじっくり見た。
「よく見ると、あなたの周りを蝶が飛んでますね。ぐるぐると飛んでいるというか」
「蝶? うーん、何か蝶に関して何かあった気がします」
男性が考えこんでいると、そこへ一人の女性が近寄ってきた。
「もしかして…… 10年後の約束を覚えてますか?」
「あなたでしたか? しかし、どうしてこの混雑の中、分かったのですか?」
「モニターの中の蝶々です。あの時も蝶々がいました」
蝶々? 10年前には居ないはずだが。アプリの蝶々は最近始めたはず。そう思っていると、男性が話し始めた。
「そういえば、10年前のあの日、あなたが先に来ていて、私が後からくる形になったのですけど、ドアを開けたら、蝶々も一緒に入ってきて、
私の周りを飛んでました。あの時は、本物の蝶でしたけど。それを覚えてくれていたのですね」
「はい。しかし、蝶々のおかげでまた会えるとは。私たちは蝶々と縁があるのかしら」
その後、その男女は楽しそうにコーヒーを飲みながら、会話をしていた。
それにしても、あの蝶々は偶然、男性の周りを飛び回っていたのだろうか。それとも何か意思を持っているのか。
私はマスターとアプリに関して、話をしてみた。
マスターによると、アプリの蝶は、実際の蝶を動きを学習させたものであるが、人の動き、感情も学習させたものらしい。なぜ、そんなことをしたのかわからないが。アプリ自体は知り合いに作ってもらったので、詳細は知らないらしい。
これまでの蝶々の不思議な行動を見る限り、何かあるな。私はそう思った。
すでに注文したエスプレッソは、テーブルの上で香りを振りまいている。
視線の隅で何かがキョロキョロと動いてる。私は視線をそちらにずらした。
スーツを着た客があちこちの席を見ながら、通路を歩いてきた。見た感じ、まだ若い男性という感じがした。
私の席を通り過ぎたとき、彼のポケットから何かが落ちた。白い布のハンカチのようであった。私はそれを拾い、声をかけた。
「ハンカチを落としましたよ」
「すみません。ありがとうございます」
私はハンカチを渡し、少し聞いてみた。
「落ち着かない様子ですが、どなたか人を探しているのですか?」
「はい。10年前の約束で、今日会うことになっているのですよ。このカフェも10年ぶりです」
「そうですか。会えると良いですね」
男性は少し離れた席に座った。
窓の外を見ると、学校の帰りだと思われる学生が多数歩いていた。
カップの中のコーヒー、つまりエスプレッソも少なくなっていた。陽の光が少し傾き始め、夕方に近づいてくるが、この中途半端な傾きが目に直行する。ただ、テーブルの影は長く目立つようになっていた。当たり前の事なのだが。
カラン……
カラン……
ドアベルの音が何度もする。
少しずつ席が埋まり、バイトのウェイトレスも忙しくなってきた。
「いらっしゃいませ!」
恋ヶ窪さんも頑張っている。
しかし、こんなに混んでいると、あの男性の相手もなかなか見つからないだろう。
私は彼の席までちょっと移動してみた。余計なお世話かもしれないが。
「まだ、来てない。あるいは見つかっていないみたいですが、何かその人の特徴とかありますか?」
「10年経つとだいぶ変わりますよね、ちょっとわからないです」
彼は若く見える。10年前だとまだまだ子供に近い年齢だったのだろう。その時は高校生ぐらいだろうか。それから10年だと、姿を見てもわからない可能性もあるな。
そして、何か気になるところでもあったのか、彼は視線を隅のほうへやった。
「あのモニターはなんですか?」
「注文するときに、アプリの蝶々の説明をされたでしょう。その蝶々が常時映し出されているんですよ」
「そうなんですか」
そういえば、蝶々は今、どこにいるのか気になって、私はモニターをじっくり見た。
「よく見ると、あなたの周りを蝶が飛んでますね。ぐるぐると飛んでいるというか」
「蝶? うーん、何か蝶に関して何かあった気がします」
男性が考えこんでいると、そこへ一人の女性が近寄ってきた。
「もしかして…… 10年後の約束を覚えてますか?」
「あなたでしたか? しかし、どうしてこの混雑の中、分かったのですか?」
「モニターの中の蝶々です。あの時も蝶々がいました」
蝶々? 10年前には居ないはずだが。アプリの蝶々は最近始めたはず。そう思っていると、男性が話し始めた。
「そういえば、10年前のあの日、あなたが先に来ていて、私が後からくる形になったのですけど、ドアを開けたら、蝶々も一緒に入ってきて、
私の周りを飛んでました。あの時は、本物の蝶でしたけど。それを覚えてくれていたのですね」
「はい。しかし、蝶々のおかげでまた会えるとは。私たちは蝶々と縁があるのかしら」
その後、その男女は楽しそうにコーヒーを飲みながら、会話をしていた。
それにしても、あの蝶々は偶然、男性の周りを飛び回っていたのだろうか。それとも何か意思を持っているのか。
私はマスターとアプリに関して、話をしてみた。
マスターによると、アプリの蝶は、実際の蝶を動きを学習させたものであるが、人の動き、感情も学習させたものらしい。なぜ、そんなことをしたのかわからないが。アプリ自体は知り合いに作ってもらったので、詳細は知らないらしい。
これまでの蝶々の不思議な行動を見る限り、何かあるな。私はそう思った。


