雨の日、君に恋をした

第24話 全ては必然でできている


それから度々彼女を見かけた。

「美味しすぎる〜!」
「もぉ。ひな、口にクリームついてるよ〜。」
食堂でパンケーキを口いっぱいに頬張って、幸せそうな顔で笑う姿。

「もぉ〜、こんなところに捨てたの誰!?」
そう言いながら、落ちていた紙パックを拾ってゴミ箱に捨てる姿。

「ん〜!天気良くて最高〜!」

抜けるような青空に向かって伸びをする姿。

彼女の存在を知ってからは、どんな些細な仕草さえも、心に焼きつくように映った。
それはどれも、太陽と同じくらい眩しく見えた。

ずっと声をかけたいと思っていた。
でも、どうやって話しかければいいのか分からず、結局はいつも見ているだけだった。
彼女の笑顔を見られるだけで、少し救われる気持ちになった。

ある日の夕方。
ひなの姿を見つけた瞬間、心臓が跳ねた。
傘も持たず、校舎の玄関で立ち止まっている。困ったように辺りを見回すその姿に、思わず胸が痛む。

――今、声をかけられなかったら、もう二度とチャンスは来ないかもしれない。

俺は反射的に傘を差し出していた。雨音が少しだけ遠のく。

「濡れるよ」
思わず声をかけると、彼女は驚いたように目を見開いた。
「え……すみません」
「傘、ないの?」
「忘れちゃって……」
「今日、雨の予報じゃなかったのにね。一緒に入る? 嫌じゃなければだけど」

大きめの傘なのに、二人で入ると肩が触れそうなくらい近い。
その距離に、胸の奥がざわついた。

歩きながら、鞄についたパンケーキのキーホルダーに目がいった。
「甘いもの、好きなの?」
「好きです。どうしてわかったんですか?」

君のことが好きだから――
そんなこと口にしたら、気持ち悪がられるかもしれない。

「それ」
ひなのカバンに付いていた小さなキーホルダーを見つけて指差すと、彼女は笑った。
「これを見ると、幸せな気持ちになるんです」
その言葉に、俺は自然に微笑んでいた。

「美味しいパンケーキの店、知ってるんだけど……今度、一緒にどう?」
「えっ……ぜひ、行きたいです」
「じゃあ、決まりね」

肩が触れた瞬間、胸が少し熱くなるのを感じた。気づかれないように――と思うと、逆に心臓の音が早くなる。

そしてふと、彼女がポーチから何かを取り出した。
「これ、昔から好きで、よく持ち歩いているんです」

それは、あの時と同じ。
いちごミルクの飴だった。
彼女は知らない。
何気なく差し出したその飴が、俺にとってどれほど大切な意味を持つのかを。

晴人は少しの間その飴を見つめ、微笑んだ。
「これ、俺も大好きなんだ」

雨音に混じる俺の声を、彼女は聞いてくれている。胸の奥で、ずっと温かいものが広がるのを感じた。

「ねぇ、運命って信じる?」
気づけば、ふと、そんな乙女のようなことを口にしていた。

「うーん……運命はあんまり信じないかな。必然、なんだと思う。
悪いことがあれば、『あぁやっぱりそうだよな、今の私だもん』って自分を振り返るの。
もっとこうすればよかったなって思ったり。
逆に良いことがあれば、『この日のために、あの日があったんだな』って思えるから。
……って、こんな答え、全然可愛くないですよね、私。」

そう言って俯いた彼女を、僕はどうしようもなく愛おしく思った。

運命じゃない。
僕にとっても、それはすべて必然だった。

あの日、家を飛び出したこと――あれはきっと、君に出会うために必要な出来事だったんだ。
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