彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…

一連の事件は、嵐のように過ぎ去っていった。林田翔と美紀という歪んだ夫婦は、自らが蒔いた種によって破滅し、宗田家にはようやく平穏が訪れた。秋太の疑いは晴れ、会社の危機も去った。柊の無邪気な笑い声が、以前にも増して家の中に明るく響く。誰もが安堵し、未来への希望に満ちているように見えた。楓、ただ一人を除いては。


彼女の心は、まるで嵐が過ぎ去った後の荒れ地のように、静かだが、深く傷つき、荒涼としていた。秋太の疑いを晴らすため、会社を守るため、かつての敏腕弁護士としての自分を呼び覚まし、冷徹に事を進めた。その結果、悪は裁かれ、正義は果たされた。だが、その過程で楓が感じたのは、勝利の高揚感ではなく、底なしの虚無感と自己嫌悪だった。

夜、ベッドで隣に眠る秋太の穏やかな寝顔を見るたびに、罪悪感が津波のように押し寄せる。この人を、私は不幸のどん底に突き落とそうとした。この人の愛を、復讐の道具として利用しようとした。事件を通して、彼の誠実さ、優しさ、そして自分への揺るぎない愛情を痛いほど感じてしまったからこそ、過去の自分の醜さが許せなかった。

彼の優しさが、今は何よりも辛い。彼が「ありがとう」と微笑むたびに、楓の心はガラスの破片で抉られるように痛んだ。この温かい場所に、自分のような汚れた人間がいる資格はない。秋太は、もっと清らかで、彼にふさわしい女性と結ばれるべきだ。

そんな考えが、まるで呪いのように楓の心を蝕んでいく。昼間は穏やかな妻を演じ、柊の前では優しい母親を装う。だが、一人になると、その仮面の下で、彼女は出口のない苦しみに喘いでいた。

そんなある日の午後、叔父から一本の電話が入った。

「楓、元気でやっているか?」
その声には、全てを見通しているかのような深みがあった。
「ええ、叔父様。その節は、本当にありがとうございました」
当たり障りのない会話の後、叔父は静かに本題を切り出した。
「実は、お前に頼みたい仕事がある。海外のNPO法人で、法律顧問を探している。紛争地域での人権問題に取り組む、過酷な仕事だ。だが、お前の力を必要としている人々がいる」

その言葉は、まるで暗闇に差し込んだ一筋の光のようだった。ここではない、どこか遠い場所へ行きたい。自分の過去を知る者が誰もいない場所で、ただ誰かのために尽くすことで、この罪を償いたい。

「…そのお話、少し考えさせていただけますか」
楓は、震える声でそう答えるのが精一杯だった。

その日から、楓の葛藤は始まった。秋太の顔を見る。柊の笑顔を見る。この幸せを手放すのか?いや、そもそもこの幸せは、自分がいていい場所ではないのだ。夜ごと、天秤が大きく揺れる。一方には、愛する夫と息子のいる温かい家庭。もう一方には、過去を断ち切り、贖罪のために生きる道。

ある雨の夜、書斎で仕事をする秋太のために、楓はコーヒーを淹れて持っていった。
「ありがとう、楓」
そう言って微笑む秋太の顔は、信頼と愛情に満ち溢れていた。その穢れのない眼差しが、楓の心を鋭く突き刺す。

(ああ、だめだ。私は、この人の隣にはいられない)

その瞬間、天秤は大きく傾いた。楓は、叔父に電話をかけた。
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